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賃貸アパート管理の一コマ②~最後の居場所~

2021.12.08|不動産
笠井美英

「息子と連絡が取れないので、アパートに様子を見に行ってもらえますか?」

 

Bさんのお父さんからの電話は、これで3回目。

そうそう長野に来れないのはわかるけど、正直「またか」という感じ。

 

学生一人暮らしなら、遊びやサークルやバイトで忙しかったりして、親からの電話に出ないのはよくある事。

私も大学時代、親の留守電をよく無視したっけ…。

 

Bさんの場合、1回目は私が電話したらすぐ出てくれて「お父さんが心配してましたよ」と伝えて解決。

2回目は電話が通じなかったので「実家に電話してください」の手紙をポスティングしたら数日後に連絡を取り合ってくれて解決しました。

 

今回は、仕事帰りに訪問してみて、もしBさんが部屋にいたら直接伝え、いなかったら手紙をポスティングすることに。

この時はまだ、悲しい結末になるなんて1ミリも考えていませんでした…。

 

Bさんの部屋の前に着くと、玄関ドアのガラスから廊下の電気が点いているのがわかりました。

しかし、インターホンを鳴らしても反応なし。

バルコニー側に回ると、居室は真っ暗でした。

(近くに出かけたのかな?)

この日は手紙を入れて引き上げました。

 

それから数日経ってもお父さんに連絡は無いとのことで、再度部屋を訪問。

廊下の電気は点いたままです。

(まさか…)

ドアポスト差し込み口を開けて鼻を近づけ、室内の匂いを確認しますが、特段気になる臭気は感じません。

 

次にBさんが通っている大学に通学状況などを確認したところ「ここのところ大学に来ていません」との回答でした。

急いでお父さんに経過を報告し、室内に立ち入る事の了解を得ます。

(最悪の結果は避けたいが…)

 

大家さんとお巡りさん立会いのもと、管理キーでBさんの玄関ドアを開錠。

すると、内側からチェーンロックが掛かっていて開きません。

(中にいる…!)

救急の出動も要請し、チェーンを切断して室内へ―。

 

救急隊員さんの話によると…

Bさんがいたのはユニットバス内。 中には練炭。

折れ戸の内側はガムテープでしっかり目張りされていました。

テーブルの上にはBさんの置手紙。

たった一言だけ、

「葬式はいらない」

 

翌日、アパート解約や原状回復などの手続きのため、お父さんとお母さんが長野に来ました。

印象的だったのは、深く悲しんでいる風もなく、淡々とした様子だった事。

こうなる事を予知していたのかな?と感じるほどに…。

 

Bさんがどんな悩みを抱えていたのか、私には知る由もありません。直接会ったのも2回だけです。

でも、どこにも行き場所がないBさんが、最後の居場所にあの狭いバスルームを選んだ心情を想像すると、本当に胸が苦しかったです。

来世は、強く長く生きてほしい―。

 

 

え?

その部屋がどうなったか、気になりますか?

 

お祓いを行い、ユニットバスを新品に交換。

告知事項あり、かつ2年間「家賃半額」という条件で入居者募集をかけたところ、間もなく女性の借主さんが見つかりました。

 

つづく

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