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高断熱・高気密住宅のワナ!?この先どうする?

2023.02.19|Q1.0住宅
塩原真貴

新住協発刊の地味ですが内容モリモリで熟読した技術資料

新住協発刊の地味ですが内容モリモリで熟読した技術資料

北海道発の新住協という高断熱高気密住宅を研究している団体があります。

建築業界でありがちなFCの類ではなく、高断熱住宅を作り手の視点から研究開発していた室蘭工業大学の鎌田教授(現名誉教授)の知識や経験を会員に公開し、会員間でも意見交換しながら切磋琢磨する場として40年前から存在する団体です。

開発部など専門部署がない地方工務店が自主的にノウハウを享受できる場として、知る人ぞ知る、とてもマニアックな団体で以前はNPO法人でした。会員向けに定期的に発行される技術情報本もご覧の多り超地味目です。

最近でこそYouTubeなどでちらほら名前が知られることになったようで、「ウチは新住協会員です」と胸を張れるようになったんですが、それはここ数年のことであって、特に隠していたわけではないですが、会員であることは公にしていませんでした。

私が勤めていた前職の工務店が新住協に加入したのは、私の記憶が正しければ2000年だったか。前職の工務店は2011年に倒産してしまったので、加入し直しを余儀なくされたんですが、基本的にはかれこれもう22年間もお世話になっていることになります。

2000年の当時は高断熱・高気密という言葉すらまだ認知されておらず、そんなものは北海道のものであって本州には必要ないという風潮があり、グラスウール断熱は時代遅れで断熱効果は疑わしい、中気密中気密ぐらいがちょうどよいのだ、と大声で唱える専門家もいらっしゃいましたなあ。

それでも新住協は当時からシートを用いて隙間風を室内に入れない、断熱材に気流を与えない、という一貫した主張をしており、結果隙間風が室内に流入することなく、断熱材も100%の性能を発揮できるということで、いわゆる高断熱高気密住宅を日影で作り続けてきたわけです。

加えて、新住協では住宅にかかる暖房エネルギー(燃費)が設計段階で計算できるQPEX(キューペックス)というエクセルのプログラムソフトがとても魅力的でした。

今でこそいくつかのメーカーで、何種類かは販売されていますが、断熱材の種類をこれからこれに替えるとどのくらい灯油が減るのか、サッシをアルミサッシから樹脂サッシにかえるとどのくらい減るだとか、とにかくだれでも瞬時にシミュレーションできるのです。

 

勉強や検証期間の1年間を経て、全棟高断熱高気密仕様に大転換したのは2002年。

最初の第一棟目は佐久市に建つ私の兄の住宅でした。

玄関ドアには今でこそメジャーになりましたが当時はなにそれ?という感じのガデリウス社のスウェーデンドア。

サッシはそれまでトステムのサーマルⅡというアルミ樹脂複合でしたが、シャノン樹脂サッシ・ペアガラスに。

床断熱は高性能グラスウール16K 140㎜、壁に120㎜、天井に200㎜で、ダクト方式の第三種セントラル換気扇。

暖房は灯油ボイラーによる温水パネルヒーターで全館暖房を行いました。Ua値は0.45前後、気密測定結果も1cm2を切っていたかと思います。

この家で温湿度測定をし、住み心地などをヒアリング。

冬の過乾燥で加湿器が必須であること、室内気温は全室20℃をキープし、暮らし心地は誠によろしい。

ぜひ今後も全棟をこの仕様にしてゆこうと決断させる結果となりました。新住協の全国の各会員からも「これだ」という手ごたえレポートが続々と発表され、アンチ高高(高断熱・高気密を省略して”コウコウ”と呼ぶ)の流派を一蹴する結果を得ました。

しかしここで問題が生じます。

全館暖房で全室気温安定はよいものの、その際消費する灯油は冬期の数か月で1000㍑を超え、

「確かにあったかいけど、前のアパート暮らしの数倍、数十倍の出費になってしまう」という結果に。

折しも化石燃料を消費し続けた結果としての地球温暖化問題がクローズアップされはじめてきており、

果たしてこのままエネルギーを従前の暮らしより大量に消費する住宅が作りづづけられてよいのか?という問題が持ち上がります。

アパート暮らしではファンヒーターで冬の間ポリタンク10本(180㍑)だったけど、その5倍?

う~ん、、、考えちゃうよなぁという意見もちらほら。

しかも社会全体からいえば京都議定書の約束がある限り、新しく家を建てたからと言って、省エネに貢献しないようでは意味がない。冬でも快適に暖かく暮らせるうえに、灯油や電気の消費量をこれまでの半分以下に減らすべし、と鎌田教授からの提言がなされた。(これが俗にいうQ1.0住宅の発祥となる)

ようやく、やっと、高断熱高気密住宅が何とかつくれるようになったというのに、、、。もっとやれってか?

ただでさえ面倒な作業が多くて、お客さん説得するの大変なんだぜえ。

え?なに? 外壁に付加断熱?

そんなことしたら工事費えらいかかっちゃうし、工期だって延びる。簡単に言うなよな~、先生っ!

という雰囲気が会員間に漂ったのは想像に難くない。私もそう感じたひとりだったので。

 

 

 

2023年、高断熱高気密住宅を否定する人は、一般客を含めほとんどいないと思いますが、

現時点での世の大多数の工務店の現在地はココにあるのではないだろうか。

だとすると、付加断熱をしていない高断熱高気密住宅が増えれば増える程、日本全体での冷暖房エネルギーは莫大に膨れ上がりつつあるのではないだろうか。

太陽光発電などの再生可能エネルギーを増やしても、とてもとても追いつかないほどのスピードでエネルギーを消費する快適社会。事実統計をみても、住宅部門の消費エネルギー量はいっこうに減る気配なく、こんなにカーボンニュートラルが叫ばれ、省エネ家電が増えても、ずぅ~っと右肩あがり。

 

高断熱高気密住宅が技術的に確率したのは30年前として、同時に全館暖房が当たり前になり、確かにそこに住む人が快適に暮らし、ヒートショックが減ったとても、それは果たしてよいことなのか?

これはまずい。

一見良い方向に見えた道のりが、実は地球を悪くしてしまう方向へ・・・(高断熱・高気密化トラップ!?)

ということで2005年頃、鎌田教授は高断熱・高気密住宅とうたってよいであろうとされる「次世代省エネ基準」で建てた場合の燃費の半分以下にすべきだという考えを会員に提唱。

半分といわずできれば1/3以下にするべく活動を再開し、外壁の付加断熱の施工方法や、冬季窓からの日射取得を最適化するような、いわゆるパッシブデザイン手法を提案、前出のQPEX燃費計算ソフトを進化させ、

”燃費を計算する”から”自らが燃費・省エネを考える” 地球人を産み出そうとしたのではあるまいか。

燃料コストが膨大になりつつあるこの時代、鎌田先生のおっしゃっていたことは確かにそうであったと実感。

更なる省エネには建物規模を小さくすること、創エネ設備を併用すべきで、エネルギーを自らが産み出すという努力もするべきかと感じる今日この頃。

体力に自信がある人はマキストーブを導入して、週末薪割りを行うのも創エネのひとつ。

時間がない人は太陽光パネルや太陽集熱など、設備にお金を投資してチャラにするのも一案。

”快適と省エネのバランス”の現実的な最適解は、やはり何度やってみてもUa=0.27前後+創エネにしか今のところならない。

この先、どうすればよいのか?

 

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