ライフステージによって、ほしい住まいの間取りや広さは変わるもの。例えば家族が増えたら個室数や広さを求め、子どもの独立などで家族が減れば、コンパクトに暮らしたいと考える人も多いでしょう。そんな時に「住み替え」という選択肢があります。
今回訪ねた古牧さんは親子二人暮らし。それまでの家が広すぎると感じるようになったことから、念願の安曇野で今の暮らしにフィットする家を完成させました。
「コンパクトで暖かな家」に住み替えたい
「長年、安曇野に住むことが夢だったんです」。そう話してくれた古牧政雄さんの趣味は登山。ここ安曇野に引っ越してきてから、休日は時々日帰り登山を楽しんでいます。窓からは日本百名山の一つ、常念岳の名峰を望むロケーション。
リビングでは、「昔から憧れていた」というデンマーク製の薪ストーブが存在感を放ちます。ゆらゆらと燃える炎を眺めながら過ごす時間は、至福のひととき。
「山に行きやすい安曇野に暮らすのが夢だった」と話す古牧政雄さん
リビングダイニングには薪ストーブ。住まい全体を穏やかに暖める
現在56歳の政雄さん。お母様の京子さんと2人で松本市内に購入した建売住宅で暮らしていましたが、数年前から住み替えを検討するようになりました。
松本の家はロフト付きの2階建てで、延べ床面積およそ140㎡。お母様と2人で暮らすこと、ゆくゆくは1人暮らしになることを考えると、やや広すぎると感じるように。さらに近隣にスーパーがなく、日常生活にも不便を感じていたそう。これを機に、念願の安曇野に新たに住まいを構えようと考えたのです。
笑顔が素敵なお母様の京子さん
住まいの周囲には悠々とそびえる名峰を眺める
政雄さんが家を持つのは、今回が3回目。1軒目は生まれ育った岡谷市内に新築した注文住宅、2軒目は転居先の松本市内で購入した建売住宅。そして今回、これまでの経験を活かしつつ、今のライフスタイルに合った住まいを新築したいと考えました。
政雄さん:
「昔から、賃貸住宅にお金を払い続けるより持ち家に長く暮らしたいと考えていました。今回の新築は松本の家を売却できることが前提でしたが、コロナ禍に入る直前に購入してくださる方が決まって。タイミングが良かったですね。ひとまず母と松本市内のアパートに引っ越して、新居の計画を進めました」
1軒目を建てた当時から住まいの性能にはこだわりがあり、特に断熱性や暖房システムに焦点を当てて各社を比較検討していました。
松本の家で採用されていたのは、建物の基礎部分に敷設した床暖房で家全体を暖めるシステムでした。「とても暖かくて快適でした」と京子さん。ただしデメリットはランニングコストが高いこと。熱源は灯油で、多い時で1か月に5万円ほどかかっていたといいます。
住まいの北側外観。車を停められる屋根付きポーチと薪棚が目印
ログハウスのような雰囲気がある玄関ポーチ
「次に住むなら外張り断熱と内側断熱を組み合わせたダブル断熱工法の家で、冷暖房のエネルギー消費を抑えたい」と考えていた政雄さん。さまざまな工務店やハウスメーカーを調べるなかで巡り合ったのがRebornでした。過去に断熱性を高めたログハウスの設計実績があったことも、山好きの政雄さんにとってはポイントだったそう。
政雄さん:
「松本市内で行われたRebornの完成見学会に参加して、設計担当の塩原さんと話したのが最初です。他に土屋ホームなども候補に入れて、各社が使っている断熱材を調べて検討しました。最終的にRebornに決めたのは、一番価格を抑えながら質のいい家ができそうだと感じたからです」
暮らしやすさに満足していると話す古牧さん親子
玄関の表札はアイアン製でオーダー
住宅ローンの審査結果がポイントに
土地探しから塩原さんに相談していた政雄さん。休日に安曇野の住みたいエリアをぐるぐる歩き回って見つけたのが、住宅街にある現在の分譲地でした。
最寄り駅までは徒歩5分。スーパーも近く、生活はぐっと便利になります。区画が複数あったので塩原さんに相談し、現在の敷地に決めました。
ここはいわゆる「旗竿敷地」。道路に面する部分が狭く、奥に敷地がある形状です。一般的には家を建てづらい、面積を活用しづらいと避けられますが、コンパクトに暮らしたかった古牧さん親子には十分。さらに不動産業者に値下げ交渉をしたところ「人気がない旗竿敷地なので、売れ残るよりは」と値下げが実現したのもラッキーでした。
南側外観。約300㎡の敷地に建物をゆったりと配置し、南側は広い庭に。今後は物干しデッキの新設も考えている
玄関には京子さんが靴を脱ぎ履きしやすいよう、壁面に折り畳み式ベンチを設置。手すりも握りやすく便利
こうしていよいよ、住宅の計画がスタート。とはいえ政雄さんには、資金面で大きな不安がありました。
政雄さん:
「私の年齢的に、住宅ローンをどの程度借り入れできるのか。金融機関の審査を受けて、借り入れ可能な金額に合わせて家の規模や機能の調整が必要だろうと覚悟していました」
住宅ローン審査のため敷地の資料や大まかな設計案を金融機関に提出し、結果を待ちます。果たして蓋を開けてみると、予想より高い金額を借り入れられることが判明! ほぼイメージ通りの住まいを建てることができたのです。
2階ホールからリビングダイニングを見下ろした風景。吹き抜けを通して住まい全体が緩やかにつながり、2階の気配も感じられる
2階の京子さんの寝室。屋根の傾斜が現れた小屋裏のようなこぢんまりした空間だ。窓からは月や朝日が見えてきれいなのだそう
完成した住まいは、2階建てで建築面積67.07㎡、延べ床面積96.68㎡。以前の住まいの7割程度の規模ですが、お母様との暮らしに必要十分な間取りが実現しました。
実は計画当初、老後を考えて平屋を希望していた政雄さん。しかし塩原さんに相談したところ、将来売却する場合を考えて2階建てを勧められました。いわく、延べ床面積が100㎡ほどあると3人家族程度でも暮らしやすいため、売却がスムーズに進むそう。将来、住まいを売却した資金で老人ホームなど施設に移る選択肢を残すこともできます。
1階にはリビングダイニングとキッチン、和室、水回りをレイアウト。吹き抜けでつながる2階に、政雄さんと京子さんそれぞれの寝室があります。
1階の和室は日当たり抜群。床の間にはお父様の仏壇を。押入れはロールスクリーンで目隠し
和室とリビングは障子で仕切れる。普段は開け放して、右奥に4枚の障子を引き込んで収納
京子さんは当初階段の上り下りに難儀し、座りながら下りることもあったそう。しかし毎日使ううちに慣れていき、今では手すりを使ってしっかり足で上り下りできるようになりました。
政雄さん:
「1階に和室を作ったのは、将来母が階段の上り下りができなくなった時に1階で寝起きできるように。私も将来的にはここで寝るようになれば、1階で生活が完結します。
住み替えて本当によかった。一般的に新築というとお子さんがいる家族が多いですが、家族構成に合わせてこのぐらいコンパクトな家もいいんじゃないかなと思います」
ハイサイドライトから光が降り注ぐ階段。「丸い手すりは握りやすい」と京子さん
2階はホールの両側に個室をレイアウト。天井に屋根の傾斜が現れている
冷暖房の効率を高めて冬も夏も快適に
コンパクトな住まいは総工費を抑えられるのはもちろん、冷暖房の効率が良く、エネルギー消費が少ないこともメリットです。古牧邸では、断熱材に高性能グラスウールを使って高い断熱性能を実現していることはもちろん、冬は日射を積極的に取り入れ、夏は極力遮るパッシブ設計によって、冷暖房のエネルギー消費を抑えています。
政雄さん:
「カーテンを開けておくと、冬でもリビングダイニング北側の階段の2段目ぐらいまで光が入りますね」
建物南側。軒の角度と深さの巧みな設計によって夏は日射を遮り、冬は日差しを取り入れる
2階の窓は「内開き」と換気に適した「内倒し」の2通りの開閉ができるドレーキップ窓。夏は自然風を通す
冷暖房設備は、リビングに設置したエアコン1台と薪ストーブ。もともとあまり冷暖房に頼らない主義の古牧さん親子は、夏もできるだけ窓を開けて風を通したり扇風機を使ったりして過ごしました。「エアコンを使ったのは、一番暑い7月と8月だけでした」と振り返ります。冬も、リビングダイニングは暖房なしで日中20度を超える日が多く、12月半ばまでエアコンを使わなかったそう。
京子さん:
「リビングで過ごしていると、冬でもとても暖かい。お昼にラーメンを食べようと思っても、暑くて食べる気にならない日もありました(笑)。洗濯ものは室内干しですが、すぐに乾きます」
冬でも日が当たり、居心地がいいリビングダイニング
キッチン背面の壁は、好きな位置に棚板を差し込めるデザイン
念願の薪ストーブがつくる豊かな暮らし
政雄さん念願のストーブの温もりも大切な存在です。寒い時期の週末は朝に火を起こし、昼ごろまで焚くのが定番。吹き抜けを通じて2階まで熱を届け、1日中暖かさが保たれます。
鉄製の本体を蓄熱性が高い石で覆ったストーブは、デンマークのHETA社製。塩原さんと一緒に駒ヶ根の薪ストーブ専門店「ファイヤーサイド」へ見に行って選びました。住まいの断熱性が高いため、室内が暑くなりすぎないようコンパクトなタイプをセレクト。
「災害時にインフラが遮断される場合を考えると、薪のストーブは心強いですね」と政雄さん
窓が大きく炉の位置が高いため、椅子に座っても立った状態でも炎がよく見える。上部は料理ができるオーブン
薪ストーブの床は耐火性の高いタイル。なんと目地も含めて、政雄さんがDIYで施工しました。
政雄さん:
「塩原さんに『自分でやってみたら』と言われて(笑)。仕事の後、夜に現場に通って施工しました。電気もまだつかない暗い中で作業したのでよく見えなくて、勘で進めた部分もあるんですよね(笑)」
京子さん:
「まさか自分でこんなことをするなんて(笑)、驚きました」
タイルはお母様が足を滑らせないよう、あえてざらりとした質感のものをセレクト。さらに、床に吸気用の穴を開けることが必要だったため、Rebornに電動工具のサンダーを借りてタイルをカットするという荒技も!「YouTube動画を参考に。1回目は失敗しました」と笑います。
床のタイルは好きな黒をセレクトし、目地も同系色を選んでDIY
屋根のある玄関ポーチに薪棚を設けたため、雨や雪の日も濡れることなく薪を取りに行ける
大量に購入してある薪は、エントランスポーチと庭に1台ずつ設置した薪棚に収納しています。この棚はRebornオリジナルの「グリーンラック」という製品。外観のデザインによく似合います。
外壁は漆喰仕上げを検討していましたが、「30年ノーメンテナンス」に惹かれてベイスギ材に防腐防虫剤を加圧注入する仕上げに途中で変更。工費を少し下げられたため、室内壁の漆喰塗装は当初予定していたDIYではなく職人に依頼しました。
外壁、室内の床や梁などの木部はDIYで塗装。「古民家のような雰囲気にしたい」と室内の梁は濃いブラウンで引き締めています。1階の天井はシナ合板現しで温もりあふれる空間に。
梁は濃いブラウンでDIY塗装。天井には白いシナ合板を使った
Rebornオリジナルの薪棚「グリーンラック」を玄関ポーチに
2階ホールから吹き抜けを見下ろすと、明るく温もり漂うリビングダイニング。古牧さん親子のくつろぎの場所です。
政雄さん:
「とにかく一番嬉しかったのは、この年齢で家を建てられたこと。そして念願の薪ストーブ。安曇野に暮らす夢を実現できたことも嬉しいです」
ライフステージと今の価値観に合う、快適な住まい。コンパクトな中に、暮らしやすさが凝縮されています。
玄関には上着と靴の収納スペースを確保。靴は1足ずつケースに入れて収納し、棚が土で汚れないよう工夫している
取材チームを温かく迎えてくれた京子さんと政雄さん
ライター:石井妙子
写真:FRAME 金井真一