“うなぎの寝床” のように南北に細長い土地での家づくりに向け、断熱や気密についても勉強し、Rebornに依頼した百瀬さん夫妻。いかにして納得の住まいを実現したか。《後編》をお届けします。
脱衣室の棚とボイラー室の活用で洗濯も楽に
洗面・脱衣室も栄里さんの家事動線を配慮した部分。実家では屋外に干していたそうですが、洗濯機から物干し場までが遠くて大変だったそう。「室内に洗濯物を干すスペースがほしい」というのが栄里さんの要望でした。
そこで、まず脱衣室内に洗濯乾燥機を設置し、大きな棚には家族の着替えやバス用品などを収納できるように。
栄里さん:
「脱衣室はプライベートなスペースなので、棚にいろいろなものを気軽に収納できるようにしました。洗濯乾燥機が近くて、取り出したらすぐに収納できるので、すごく楽です」
洗濯乾燥機を設置した脱衣室。棚にはボックスごとに家族の衣類を収納
ホールから脱衣室への扉は可愛い雰囲気のものに。「ガラス部分の透けを心配しましたが、位置が高かったため問題ありませんでした」と栄里さん
洗面台は造作。タイルと間接照明でおしゃれな雰囲気に。床は断熱性・保温性に優れ、水に強く滑りづらいコルクタイル
脱衣室にはヒーター付きのタオル掛けも
そのうえで、洗濯物を干すスペースとしては、玄関横に設けられたボイラー室をランドリールームとしても活用。エコキュートのタンクやエコヌクールピコ(熱交換器)の熱交換ユニット、パワーコンディショナーや分電盤などの機器を集約した空間で、多少の放熱があるため、洗濯物が乾きやすいのです。
ランドリールームを兼ねたボイラー室。右奥に見える冷蔵庫のようなものがエコキュートで、その隣がエコヌクールピコ。換気扇もあり、第3種換気を設置
ボイラー室で1年点検中の塩原さん。見つめる來美ちゃんの奥に洗濯物が干してあるのがわかります
ボイラー室の扉も造作。締め切ると中が見えません
エコキュートやエコヌクールピコの室外機は屋外に設置
脱衣室も浴室も暖かいので、子どもたちが入浴の際に「寒い」と言わなくなり、将来、栄里さんの母が同居するようになってもヒートショックの心配がなくて安心だそう。
栄里さん:
「普段の過ごし方も、実家では冬、子どもたちはあまり走り回らなかったのに、今は暖かいので家中を裸足で駆け回っています」
ちなみに居住空間の床材は、使用頻度の高い1階は硬めの広葉樹であるナラ材を選択。コスト面を考慮して節ありにしましたが、節は全く気にならず、汚れが目立たないのでかえってちょうどいいとのこと。2階は柔らかくて足触りがよく、コストも安い針葉樹のアカマツを選びました。
無垢材の床を裸足で走り回る子どもたち。ナラの床材はナチュラルな節ありで表情豊かな風合い
2階はアカマツ材。施工事例を参考にセレクト
こうして断熱によって走り回るようになった子どもたちですが、意外だった盲点もありました。スケルトン階段の踏板の角に頭をぶつけてしまうのです。通常の階段と異なり、むき出しになった踏板がちょうど子どもの顔や頭の高さに当たるのだとか。雄斗さんの父がカバーを制作してくれましたが、これは住んでみないとわからなかったそう。とくに小さな子どもがいる家庭では、参考にしたい事例です。
雄斗さんの父作のスケルトン階段のカバー
ちょうど子どもたちの頭が当たる段を保護
1階のみで暮らしが完結できる設計
1階の北側は6帖の和室。外観は小屋のような平屋です。ここは将来的に、栄里さんの母が引っ越してきて暮らせるスペースになっています。和室は畳の暮らしに慣れた母の希望。上吊り式の引き戸は床のレールがなくフラットなので、足腰が弱くなった場合も段差につまずく心配がありません。また、意匠的にもスマートで、扉を開けっ放しにしておけばワンフロアとして空間をつなげることもできます。実際、現在は普段、扉を開放したままにしてホールの延長のように使い、夜は家族4人で布団を敷いて寝室にしています。
栄里さん:
「引き戸を開いておけばリビングまで見通すことができ、自由に行き来ができるようにしてもらいました。まだ母と同居していない今は家族の暮らしが1階で完結しているので、2階はほぼ使っていません」
1階完結型の間取りは、長い将来を考えると、たとえ老後に夫婦二人だけの暮らしになったときも安心です。また、引き戸はソフトクローズ機能つきで閉まるときに音が出ないのでうるさくなく、ゆっくり閉まるので、小さな子どもたちが手を挟む心配がないのもメリットです。
和室からホールやリビングへ目線が抜ける設計。引き戸は自動でゆっくり閉まるソフトクローザー
杉板張りの天井で、押入れを2つ設置。個室として使えるようにエアコンも完備
和室のすぐ近くにトイレも設置。車椅子でも入れる広さ
トイレのタイルは脱衣室と統一
2階は家族だけの空間ならではの工夫を
2階は7帖の主寝室と、将来的に仕切ることもできる9帖の子ども部屋。階段を上ったすぐのホール一角には書斎コーナーもあり、1階と同様、長い南北を一直線に見通せるレイアウトです。また、勾配天井で高さを抑えています。
雄斗さん:
「部屋の端にいくと自分の身長くらいの高さですが、中心部にいくに連れて高さが出るので圧迫感はなく、天井が勾配しているので開放感があるように感じます」
2階ホール。木製の手すりは、笠木と縦桟の間に隙間を設けて意匠性をアップ
主寝室からホールまで一直線に見通せるレイアウト。勾配天井でも高さは気にならない
書斎コーナー。2階用の冷房用エアコンも設置。左は2階用のトイレと洗面台
子ども部屋の薄ピンク色のパネルヒーターも施工事例を参考に選択
子ども部屋は仕切らず開放的にひとつの広い部屋にしておくアイデアもありましたが、どちらにもできるように窓やドアを配置。3人目の誕生を控えていることもあって、仕切るかどうかは今後の検討事項になりそうです。
なお、個性的な照明もこの家のポイント。1階は上品で高級感のある受注品を中心にセレクトし、2階は既製品を使いつつ、遊び心あるデザインのものを選びました。
栄里さん:
「照明の設置場所はある程度決まっていましたが、照明自体はすべて施主支給なので、自由度が高い分、何を選んでよいのかわからず大変でした。部屋の雰囲気などを見ながら探しましたが、部屋ごとの採光の量や明るさもわからないので、塩原さんにアドバイスをもらいつつ決めました」
じっくり選び、お気に入りの照明を採り入れることで、住まいへの愛着がより深まっているようです。
洗面台の左側が子ども用クローゼット。細長い土地の関係上、部屋とは別のスペースに
クローゼット入り口の照明は水面のような光が浮かぶ個性的なもの
2階ホールの照明は樹脂糸・木綿糸を使ったランダムな光が味わい深いペンダントライト
トイレの照明はチューリップの花びらのようなフォルムが可愛いものをセレクト
日当たりのよいキャットウォークも暮らしに活用
2階南西部の主寝室は、現在は子どもの遊び部屋になっていて、吹き抜けの高窓につながるキャットウォークはこの主寝室から行き来します。
主寝室は柔らかい光で過ごせるよう間接照明を採用。現在は子どもたちが遊ぶ空間に
主寝室はクローゼットを併設し、南面がキャットウォークにつながります
キャットウォークには手すりの設置を希望しましたが、もともと塩原さんからは「付けなくてもよい」という提案もあったとか。しかし、設置したことで普段使いに大きく役立っているそうです。
栄里さん:
「キャットウォークは日当たりがよいので、手すりを布団干しに使っています。大きなものを洗っても、掛けておけばすぐに乾くのですごく便利です」
暮らしていると意外な有効活用があるものだと実感する実用例です。
一方、布団を干すために引違いにした窓は、布団干しとしては使用していないものの、夏の暑い日に窓を開けると暖まった2階の空気が逃げていくそうで、換気に活用しています。
主寝室から続く幅750㎜のキャットウォーク
キャットウォークの転落防止の木製手すりは布団干しに活用
父子で臨んだDIY
さて、過去の施工事例やブログを読み込み、さらに契約後もRebornのいくつもの見学会に参加して、あらかじめ設計や施工について理解を深めていた百瀬さん夫妻。しかし、そんな勉強家な二人でも、想定外に苦労したのがDIYだったそうです。
雄斗さん:
「これまでの『暮らしのことば』を読んでDIYは大変だと思っていましたが、予想以上でした。大工の父親が手伝ってくれて助かった反面、塗装や漆喰の塗り方に対して厳しかったので苦労しましたね。年末年始もずっと漆喰を塗っていました」
さらに、長野市近郊のお施主の場合は、木材の塗装などはRebornの事務所に併設されている作業場でできますが、百瀬さん邸は離れた松本市だったため、施工現場まで建材を運び入れてDIYをしたそう。天気が悪い日は屋外で作業ができず、屋根の下に運んで塗装をしたため狭くて大変だったとか。引き渡しは1月下旬で、早く暖かい家に住みたい一心で頑張ったそうです。
漆喰はローラーによる二度塗り。破風や天井、床などの板材の塗装も現場で行われました
玄関ホールの縦スリットもDIY。ツートンカラーは塩原さんからの提案
施工中、雄斗さんの父はに何度も現場に足を運び、タオル掛けの下地は現場の大工と話した父が施工してくれたそう。
雄斗さん:
「現場の大工さんが助かったかはわかりませんが(笑)、父からはいろいろとアドバイスはもらいましたね。下地はタオル掛けのほか、トイレットペーパーホルダーなど、施主支給のものは基本的に図面に載っていなくても下地が必要です。あらかじめ、現場の大工さんと話しておくといいですね」
また、下地といえば見落としがちなのが、後付けのカーテンレールの下地だとか。
雄斗さん:
「カーテン屋さんと相談したときに、カーテンレールを取り付けるために必要な下地の幅がギリギリでした。早めに相談しておいたので助かりましたが、幅などは結構気づかないので早めに考えておくといいと思います」
とくに耐震上、筋交いを入れた大きな窓は、カーテンを筋交いの中と外、どちらに掛けるか迷ったそう
子ども部屋のカーテンも早めに相談して下地を入れてもらったとか
それでも、家づくりの検討を本格的に始めてからトータル2年半ほどかけて完成した念願の住まい。不満は全くないと微笑む二人の穏やかな空気感と、屈託のない子どもたちの笑顔が、まさに暮らしの充実度を物語っているようです。一家の安心と満足が詰まった家は、真新しい無垢材が飴色に変化し、真鍮の照明が深みを帯びた色合いになっていくように、これから新しい家族を迎えながら味わいを増し、思い出を重ね、ますます心地よさを育んでいくことでしょう。
記者感想
家は家族が集い、長い時間を過ごし、さまざまな思い出を共有する場所。だからこそ、家づくりは「どんな家族像をめざすか」を考えることに似ています。百瀬さん夫妻は、住み心地を左右する土地の形状をよく理解したうえで、これからの家族のあり方を考え、時間をかけて住宅会社を選び、Rebornのホームページを読み込み、家族に最適な納得の住まいを手に入れました。「ファーストプランからほぼ変わっていない」ということは、いかに最初の段階で理想的かつ現実的な性能や間取りを思い描き、信頼してRebornに依頼したかがうかがえます。
そのうえで、電気代や灯油代が高騰している現代は、住み続けていくための光熱費など、ランニングコストを抑えることも重要な要素。断熱性能や耐震性能を重視し、太陽光を上手に活用して光熱費を抑えた百瀬さん邸は、住み手にも地球環境にもやさしい住まいです。高断熱・高気密といった住宅性能と、使い勝手のよい間取りやデザイン性、そして、持続可能性。随所に快適でサステナブルな暮らしを求める今の時代に注目すべきヒントが溢れていました。
ライター:合同会社ch. 島田浩美
写真:FRAME 金井真一