暮らしのことば

理想の暮らしを謳歌する50代からの家づくり。無理なく無駄なく叶えるゆとりある大人の棲家

安曇野市|千葉様|2021年
新築

「人生100年時代」ともいわれる現代。先の暮らしを見据え、50~60代で“終の棲家”へと住み替える方も増えています。安曇野市穂高に新居を構えた千葉 茂さん・弥生さん夫妻も住まい方を見直し、新たな生活へと踏み出した一組。兵庫県、千葉県を経て、Rebornでの家づくりを決めた二人の話から、人生の後半を過ごす新しい住まいのかたちを考えます。

これまでの暮らしを生かした間取り提案

人気の移住先として常に上位にランクされる長野県内でも、特に高い人気を誇る安曇野市。北アルプスを間近に望め、田園風景が広がる豊かな自然が魅力です。なかでも観光地としても知られる穂高地区は移住者が多く、市内5地域で最も人口が多いエリア。松本市から続くJR大糸線の穂高駅は、市内にある11駅のなかで利用者数が最多で、特急列車も停車する拠点駅でもあります。

そんな穂高駅から徒歩5分ほどの閑静な住宅地の一角にある千葉さん夫妻の住まい。人気エリアの駅近物件なのに、周囲は驚くほど落ちついた雰囲気です。一見、平屋のようにも見える“への字型”の大屋根が印象的な佇まいで、Reborn特有の漆喰外壁と無垢材が調和し、周辺に漂う穏やかな空気感とよく馴染んでいます。

西側に北アルプスを望む千葉さん邸。東側の接道面は、車庫のほかに十分な駐車スペースも

南面から眺めると平屋のようにも見える、和モダンなデザイン

出迎えてくれた千葉さん夫妻もまた、落ち着きのある和やかな雰囲気。心地よい暮らしを送っている様子が伺えます。

50代半ばで安曇野市への移住を決めた千葉さん夫妻

広い玄関アプローチとウッドデッキも、住まいのゆったりとした雰囲気を印象づける

玄関から室内に入ると、玄関ホールも中へと続く吹き抜けのL字型のLDKも、広くて明るく開放感たっぷり。お互いに同じ空間にいても適度な距離感が保てる、余裕のあるスペースです。

玄関土間は弥生さんの街乗り用自転車も置けるほどの広さ。造作の玄関収納も豊富な容量

LDKへと直結する玄関ホール。帰宅時に十分荷物が置ける広さ

吹き抜けのリビングは南側の掃き出し窓による採光も十分

リビングからL字型につながるダイニングキッチン。東側から日光が注ぐ明るい空間

弥生さん:
「LDKはどうしても東側からの“抜け”を生かして採光したかったので、このかたちと広さになりました」

茂さん:
「いろいろと家づくりの本を読んだりもして間取りのセオリーを研究しながら、Rebornの設計担当の塩原さんに提案していただいた図面をベースに、自分たちでも間取りを考えました」

こう話すとおり、部屋の位置や大きさを夫妻で考えたという二人。一般的に、素人が家の設計をしてもスケールや上下階の構造の整合性が取れないのに対し、茂さんが設計した図面は、塩原さんから「100%」とお墨付きをもらうほどの出来栄えだったそう。というのも、茂さんはメーカーで設計の仕事をしていたことから、図らずも設計に対する考え方の基礎ができていたようです。

茂さん:
「家全体の形状を四角と決め、玄関からLDKのかたちをフィックスし、必要な間取りを当てはめていくと自ずと今の間取りができました。でも、設計については仕事柄、考え方が慣れていたのかもしれないと塩原さんから言われて気づいたくらいです」

リビングは東側2階部分に設けた窓からも光が差し込む

開放的な吹き抜けの2階からリビングを眺める

キッチンの東側の窓からの眺めが弥生さんのお気に入り

システムキッチンは造作への憧れもあったが、水滴や汚れを気にせず使えるパナソニックのものを導入

夫妻が考えた間取りの特徴が最もよくわかるのが、リビングの横の6帖の和室空間です。3帖の畳が敷かれ、両壁側の板張り部分には、立派な屋久杉のタンスをはじめとする木製のタンスが計4つ並びます。普段は開け放している引き戸を閉めると、隣室から独立した空間になります。

リビングからつながる和室のタンス部屋兼客間

両サイドの板張り部分に木製のタンスがずらり

このタンスは、弥生さんの亡き両親が嫁入り道具として揃えてくれたもの。ほかに、弥生さんの母の趣味であった「押し絵」の羽子板などの作品が数多く遺されていたり、これまでの暮らしのなかで増えた荷物が何かと多かったりしたため、収納できる空間は二人にとって必須でした。

弥生さん:
「私の地方では結婚の際に親が子にタンスを持たせるのが一般的でしたし、この家に移り住むにあたり、自分たちで購入した家具は家のテイストに合わなかったのでほぼ処分しましたが、親が揃えてくれたタンスや遺した物は簡単に手放せませんでした」

壁にかかっているものは全て弥生さんの母の押し絵作品

写真のモチーフは桃で、季節に合わせて掛け変えている

ダイニングテーブルは、弥生さんの父が鹿児島で購入し、実家で愛用していた屋久杉の一枚板の座卓を家具屋でリメイクしたもの。ウレタン塗装を剥がして再塗装し、脚を付け替えた

「両親が遺した物はできるだけ利用しています」と弥生さん

この“荷物が多い問題”は、常に千葉さん夫妻の住まい選びの肝になっていたそうです。

転勤を機に見直したこれからの人生

もともと兵庫県で25年ほど暮らしていた夫妻。茂さんは宮城県仙台市出身で、大学時代を岩手県で過ごし、卒業後は東京に本社があるメーカーに就職しました。配属は主力工場があった関西に。そこで弥生さんと出会って結婚し、兵庫県の弥生さんの実家の土地に家を建て、両親の近くで暮らしていました。

つまり、家づくりは今回で2回目。ただ、前回は弥生さんの従兄が働く大手ハウスメーカーのイベントの一環で建てたため「あれこれ考える余地がなかった」と話します。というのも、会社の創立記念で1棟だけ高級住宅を建てるという抽選に当選したという、特殊な例だったのです。

弥生さん:
「デザインも間取りも全部決まっていて、土地の向きに合わせて玄関の位置を変えたくらい。コーディネーターがいろいろと決めてくれ、私たち自身が若かったこともあって、薦められるがままに素材や色などを選びました。自分たちで家づくりをしたという感覚はなかったですね」

そうしたなか、夏は熱帯夜が続くほど暑い関西暮らしをするうちに「いずれ年を取ったら涼しい地域で暮らすのもいいね」と話していたとか。とはいえ、近居の両親や仕事のこともあり、あくまで「夢物語」だったそうです。

ところが弥生さんの両親が早くに亡くなり、さらに茂さんが50歳のときに決まったのが、まさかの東京転勤。まずは1年間、単身赴任し、その後、都心まで電車一本で通勤できて家具などの収納力もある千葉県流山市のマンションを借り、二人で暮らしはじめました。しかし、その物件が社宅扱いとして家賃補助される期限は限られていたそう。その後は自分たちで家を借りるか建てるかしなければならないとなると、次第に移住が現実的なものとなっていきました。

茂さん:
「夫婦二人だけの暮らしなので、子どもに合わせた生活を考えなくていいですし、うちの会社には早期退職支援制度もありました。その制度を利用し、退職後の1年間で家を建てて移住しようという話になりました」

二人の会話のリズム感からも、夫婦仲のよさが伝わってくる

「最初の家づくりで建築の流れはなんとなくわかりましたし、実際に住んでから見えた改善点は今回の家づくりに生きています」と話す弥生さん

紆余曲折の土地探しを経て、安曇野市の新築分譲地へ

こうして移住先を探すなかで、候補地に挙がった場所のひとつが、約30年前に夫妻で立山黒部アルペンルートを旅行した際、偶然立ち寄った安曇野市です。

弥生さん:
「電車のチケットが穂高駅まで有効だったので、せっかくならと来てみたら、こんなにきれいなところがあるんだと感激しました。その後も何度か夫婦で安曇野に旅行に来ました」

茂さん:
「登山などをするわけではないんですが、山のある風景が好きだったんですよね」

現在の住まいも、北アルプスを望む好立地

2階のベランダからは田園風景を見渡せる

しかし、当初は安曇野市への移住は候補のひとつでしかなかったそう。茂さんの実家がある仙台市に近く交通の便がよい福島県や、栃木県那須町を検討しましたが、日々の買い物や病院の通院のしやすさに加え、兵庫県で阪神大震災や台風の被害を経験した二人としては災害も心配のタネでした。そこで、ハザードマップも踏まえて移住地を再検討。徐々に考えるようになったのが、台風の被害の不安が少ない長野県でした。

意外と冬の積雪量は少ない安曇野市

「地震は日本中どこでも発生するので仕方ない」と考え、家づくりの耐震強度を重視したという

そんな折、インターネットで見つけたのが、安曇野市の宅地です。現在とは別の土地で、駅から少し離れた生活道路沿い。実際に見に来ると、大きさも手頃でした。悪くはないものの、今一歩踏み切れないでいると、不動産屋から「ほかの土地も見るだけ見てみますか?」と紹介されたのが、現在の土地でした。

弥生さん:
「今の土地はもともとネット上の公開情報で知ってはいましたが、100坪という広さは私たちには広すぎるし、予算的にもオーバー気味。それでも実際に土地を見ると、近くに駅があるし、歩ける範囲にスーパーや郵便局、医院もあって、静かで山も見える。最終的にここがいいという話になりました」

全5区画の新築分譲地で、そのうちの2区画を候補とし、ようやく2019年5月、移住先を安曇野市へと絞りました。

自然な流れで依頼したRebornでの家づくり

ところで、そもそも新築ではなく、建売や中古物件の購入は考えなかったのでしょうか。

弥生さん:
「私はアトピーで、以前に家を建てたときはしばらくシックハウス症候群で、毎日、窓を開けて匂いを逃していたんです。だから、化学物質をできる限り使っていない家が条件でした」

そのため、自然素材を使った家づくりはひとつの条件だったそう。また、兵庫県では夏暑くて冬寒い家が当たり前だと思っていましたが、千葉県で気密性・断熱性が高いマンションに暮らした際、高断熱住宅の快適性を初めて知ったと言います。「高機能住宅」「自然素材」などの検索ワードで調べていくうちに、たどり着いたのがRebornのホームページでした。

茂さん:
「もともとはRebornが会員になっている『新住協(※)』を知り、いい感じのコンセプトだなと思って長野県の工務店を調べ、Rebornを知りました。気になってホームページの施工事例や塩原さんのブログを読み進めるうちに、なんとなく夫婦で『長野県で家を建てるとしたらRebornがいいな』という雰囲気になっていきました」
(※)新木造住宅技術研究協議会=「快適な省エネ住宅をローコストに供給する」を信条に集まった、工務店、設計事務所、ハウスメーカーによる技術開発集団

高断熱で耐震性も高い「Q1.0住宅」を提案する「新住協」

Rebornは「新住協」のマスター会員を務めている

なんと、他社の工務店は考えておらず、Reborn一択だったそう。

茂さん:
「兵庫県の家は10年ごとに屋根や壁の塗り直しが必要でしたが、50歳を過ぎてからの家づくりは極力、メンテナンスや身体への負担がかからない住まいが希望でした。その点も、Rebornであればメンテナンスをする必要が少ない設計をしてくれますし、長期的にフォローをしてくれるのも魅力でした」

こうして塩原さんにコンタクトを取り、分譲地について相談。すると、塩原さんはすぐに現地調査に来て地盤の状態や採光上の問題などを確認し、候補地のアドバイスをくれたのです。

弥生さん:
「どうしようかなと悩みましたが、千葉県のマンションを借りるときに大量の荷物が収まる家をやっと見つけたのに、検討中にほかの方に決まってしまった経験があったので、この土地も誰かに先に契約されたらショックが大きいよねと話して決めました」

茂さん:
「いいと思ったときに即決しないと後悔すると、マンション探しで学びました。Rebornで建てると正式に依頼をしていないうちから土地を見ていただいたのもありがたかったですね」

契約は2019年7月。2021年の引っ越しまで、時間をかけて塩原さんに設計を依頼することになりました。

大切なのは施主側もしっかり考えること

土地購入の時点でややオーバーしていた予算については再検討。当初の予定額から引き上げました。

茂さん:
「そもそも僕らの感覚が何十年も前の家づくりのときのままで、見通しが甘かったよねと一旦リセットしました」

茂さんは会社で開催されていた、セカンドライフをイメージするための将来設計セミナーや講習会にも参加。年金なども踏まえて将来の生活費を計算し直し、最終的には塩原さんが紹介してくれたファイナンシャルプランナーの岩坂さんに資金計画を確認してもらい、費用面の課題をクリアしたそうです。

そのうえで、塩原さんから受けた設計プランの提案は、計5回。当初は高齢になった際、階段の上り下りが不要でコンパクトな平屋をイメージしていましたが、いざ計画してみると、多くの荷物やタンスを置くためのスペースが必要で、平屋では建ぺい率がぎりぎりでした。室内の採光も難しいことがわかったと言います。

そこで、水害の被害は少ないエリアでしたが、万が一の浸水時に垂直避難ができ、塩原さんから「2階への上り下りで足腰を使っていると老後の筋力維持にプラス」と言われたことも考慮して、2階建てのプランで設計を進めることになりました。

茂さん:
「Rebornの家づくりは見積もりの明細が明確で、家をもっと安く造るためにはどうしたらいいかを考えると、大きさを変えるしかないこともわかりました。そのわかりやすさもよかったですね」

ファーストプランは、ほぼ平屋に2階部分が載っているようなイメージ

サードプランは屋根の向きが変わり、検討を始めた太陽集熱器を搭載。現在の家のかたちの基盤になっている

夫妻が重視していたのは、やはり断熱と収納、そして、弥生さんの母が車椅子生活だったことも踏まえたバリアフリーの住まいです。塩原さんが設計を考える間も、二人でいくつものRebornの完成見学会に足を運び、検討を重ねました。

最も参考になったのが、最初に見学会に参加した松本市蟻ヶ崎の住まいです。千葉さん邸と同じく、への字型の大屋根の家で、間取りに回遊性があり、内装は施主による漆喰左官コテ仕上げでした。

ほかに、山小屋風の長野市の家や、千曲市の規格住宅も見学。外壁漆喰など、塩原さんのブログで見聞きしたものを実際に確認してイメージを固めつつ、自分たちの好みを明確にしていきました。

弥生さん:
「蟻ヶ崎の家を見て『こんな住まいがいいね』と二人で話しましたし、見学会のたびに塩原さんが説明してくれるので、人となりもわかりました」

茂さん:
「蟻ヶ崎の家のように大屋根にしようとすると、我が家の場合は北側斜線の問題があり、イメージしている部屋の広さに間取りの希望や荷物が収まるかという疑問もありました。そこで、フリーの間取り設計ソフトを使って、自分で部屋の組み合わせを考えてみることにしました」

こうして、塩原さんの設計図をベースに茂さんが間取りを考えたのは、先述のとおり。その図面をもとに、塩原さんは柱や梁などの構造材の架け方を検討し、とうとうプランが完成しました。

将来的に1階だけで生活が完結するような「1階完結型」の間取り。車椅子でも利用しやすいよう、回遊性があって全体的にゆったりとしている

2階は寝室やフリースペースのホール、納戸など、必要最低限の間取りに

2階の小屋裏収納は二人では思いつかず「専門家ならではの塩原さんからのアドバイスだった」と弥生さん

階段の位置は、茂さんが配置に特に苦労した場所

茂さん:
「Rebornでの家づくりは、施主側もそれなりに頭を使わないといけません。我々も当初は希望の暮らしのイメージを具体的なかたちにすることが難しく、間取りの提案を受けても良し悪しの判断がつきませんでした。塩原さんは尖ったプランを提案してくることもあるので、その考えを理解し、自分たちの考えも持ってのやりとりをしなければなりませんでした」

階段下にも収納スペースがある

和室空間の横の洗濯干し場(フリースペース)は弥生さんが希望した空間

洗面台から脱衣所、風呂までバリアフリーで車椅子でも利用可能

トイレも車椅子でも利用できる十分な広さ

2階のホールは現在、茂さんの趣味であるロードバイクやギター置き場に。その奥は6帖のウォークインクローゼットです。1階中心での生活が可能なので、将来的には階段を使わない安全な生活を送ることもできます。

2階ホールはロードバイクのメンテナンスもできる広さ。壁は自転車が掛けられるよう、内部に下地補強が施されている

ホールからウォークインクローゼットへ

太陽光発電パネルで人にも環境にもやさしい暮らし

塩原さんからはさまざまな提案がありましたが、夫妻にとって最も専門的だったものが、大屋根に載せた太陽光発電パネルです。もともと太陽光集熱器によるパネルヒーター暖房に関心があり、塩原さんから詳細な説明もありました。ただ、夏場に数日間、家を空ける場合は、屋根に上ってパネルにカバーをかけるなどの対応が必要なことや、強風に対する不安があったそう。外観上のデザインも少し気になっていたそうです。

その点で難色を示したところ、案内されたのが太陽光発電パネルでした。補助金制度やLPガスを利用する場合のメリット・デメリットなどの説明を受け、補助金が利用できれば太陽光発電パネルでも費用負担がさほど大きくないと判明。太陽光発電パネルによるオール電化に決めました。

南面の屋根に搭載した7.5kWの太陽光発電パネル

太陽光とエコキュートを併用したオール電化にすることで光熱費の節約に

弥生さんは今までガスを使っての生活だったため、当初はオール電化にピンと来ていなかったそうです。しかし、Rebornの見学会で「オール電化にすると部屋が暑くならず、匂いが広がらない」と聞いたことや、茂さんが単身赴任中にオール電化のアパート暮らしで使いやすいと言っていたこと、周囲で住宅リフォームをした知人たちが漏れなくオール電化にしていて、使い勝手も悪くないと聞いたことで導入を決心したと言います。これまでの都市ガスと異なり、LPガスの光熱費への懸念も後押しになりました。

その反面、苦労をしたのが、住宅設備や照明器具のショールーム巡りです。千葉県内にはいくつものショールームがありましたが、新型コロナウイルスの流行により、軒並み休業。解除されたタイミングで一気に巡ったものの、特に照明はなかなかイメージが掴めなかったそうです。

漆喰の壁が白く、思いのほか室内が明るかったため、活用できていない照明もあるとか

システムキッチンは大手メーカーを全て巡ったなかで、価格も手頃なパナソニックに。収納棚は扉があるものをセレクト

茂さん:
「照明以外にも、難しかったのはカラーコーディネートです。好みの色を聞かれても、それが正しいのかも、出来上がりのイメージもわからなくて大変でした」

弥生さん:
「大手のハウスメーカーで建てる場合はコーディネーターがある程度選択肢を提案してくれるので楽ですが、その分、人件費がかかるのは当然のこと。Rebornの場合はイチから自分たちで選んで決めないといけないという苦労はありましたね」

なお、当初は対面だった塩原さんとの打ち合わせもコロナ禍でリモートになりましたが、茂さんは仕事上、よくリモート会議を行っていたので、話し合いは違和感なくできたそうです。

2ヵ月間のシェアハウス暮らしでDIY。漆喰は左官仕上げに

そして、やはりRebornといえばDIYです。千葉さん夫妻においても、費用面を考えてもDIYをしない選択肢はなかったそう。茂さんは2ヵ月間、棟梁の北村さんと一緒に市内のシェアハウスに泊まり込み、朝から夜遅くまで毎日現場でDIY塗装などを手がけました。

茂さん:
「塩原さんのブログを見てDIYは楽しそうだとは思っていました。すでに早期退職もしていたので時間の余裕がありましたし、大変でもいい思い出になると思っていました」

茂さんが漆喰塗装で選んだのは、コテによる左官仕上げです。ローラーのように二度塗りは不要な分、技術が必要で材料も重く、漆喰を練るのも一苦労ですが、茂さんとしては単調な二度塗りよりも左官仕上げのほうが面白かったとか。現場では北村さんや外装を手がけるプロの左官職人に塗り方のコツなども質問したおかげで、次第に職人たちとも仲良くなっていきました。

茂さん:
「兵庫県での家づくりでは夫婦ともに平日は仕事をしていたので、どんな職人さんが建てたのかわかっていませんでしたが、今回は職人さんたちの顔が見える安心感もありました」

人目につかない2階の寝室から塗装を開始

コテ跡が残る味わい深い壁面

真冬の作業だったものの、外壁工事や断熱材の充填が終わってからの施工だったため、高断熱を肌で感じることもできたそうです。

茂さん:
「並行して行われていた1階の紙クロス張りで使われていたヒーターで、2階はかなりの暑さでした。これが高断熱の家なんだと実感しましたね(笑)」

一方で、着々と迫ってきたのが期限です。当初は余裕だと思っていたのに、後半はかなり必死だったとか。

茂さん:
「毎日20〜21時まで作業をしていましたが、近所で『あの家の大工は遅くまで仕事をしている』と噂になっていたそうです。つなぎを着て作業をしていたので、施主とは思われていなかったでしょうね(笑)」

最終的になんとか塗装は終わったものの、茂さんは腱鞘炎に。床や巾木、軒天、家具などの塗装は弥生さんが引き継ぎました。

「DIYは十分に堪能しました。いい思い出にはなりました」と茂さん

弥生さんは「自分で塗ったと思うと愛着も湧きます」と話す

悠々自適な50代からの新築暮らし

こうして完成した住まい。2021年5月に引っ越してきて、今は二人とも快適な暮らしに満足しています。

弥生さん:
「私はもともと出歩くタイプではないのですが、ますます家にいる時間が増えました。兵庫県での冬の朝は窓の結露拭きからはじまりましたが、その必要もなく、冬布団もいりません。一年中、薄い肌掛け布団だけで過ごせていてホテルのようです。それに、以前は部屋と部屋の間に寒暖差があって夏や冬は快適な部屋から出るのは嫌でしたが、今はそれがなくてすごく楽ですね」

茂さんが驚いたと話すのが、遮音性です。兵庫県の家は裏に新幹線が走り、千葉県では街全体が騒音に溢れていました。

茂さん:
「ここらへんは一帯が静かですが、断熱材が厚いためか、家の中にいると外の音がほとんど聞こえません。DIYをしていた頃は、たまに千葉県に帰るとマンションの周りがうるさくて、こんなところで生活しているんだと、長野との環境の違いを実感しました。安曇野は特に夜が静かで、聞こえるのはカエルの鳴き声と室外機の音だけです(笑)」

この室外機の音も、塩原さんに相談して今は解消されました。

完成後1年後点検の際に室外機の音が壁面から室内へと伝わるのを改善している塩原さんと茂さん

点検を終えた塩原さんと話す夫妻

また、弥生さんは関東圏の都会暮らしが肌に合わず、千葉県のマンションでは換気扇のフィルターを頻繁に変えても周囲の壁が真っ黒になるほどの空気の汚れも気になっていたと言います。

弥生さん:
「以前はよく旅行に行きたいと思っていましたが、今は暮らしが快適なことに加えて周囲の景色がきれいで癒やされるので、旅行に行かなくても十分満足しています」

太陽光発電パネルについては、国交省のZEH (ゼッチ=ゼロ・エネルギー・ハウス)の補助金を受けるため、7.5kWを搭載したこともあり、創電の収入がプラスに。その額、年間で7万円以上! 暖房設備は全室パネルヒーター、冷房設備は寝室のエアコン1台のみで、冬場は全館暖房の分、電気使用量が太陽光発電量より上回るものの、春夏秋は冷暖房を使わない時期が多いので「十分お釣りが来る」と言います。

弥生さん:
「補助金の申請は塩原さんにやってもらえ、もらえる補助金は全てもらいました。特に太陽光はあるとないでは全然違います。エアコンが高性能なこともありますが、ランニングコストの少なさは助かっています」

寝室のエアコンからの送風が循環する家の構造。夏はエアコンを28℃設定にしており、1階が28℃、2階が26℃に保たれているという

階段下にサーキュレーターも設置。夏場は扇風機も活用

リビングの軒の高さも通常よりも高めに設計されているぶん、冬至でも室内に日光がよく差し込んで明るく暖かいそうです。2階の南側に窓がないため、特に冬は積極的に1階で過ごすようにしているとのこと。

また、兵庫県の家では西日が強く、すだれをかけて対策をしていましたが、台風のたびに片付けていた手間が今はなくなり、ずいぶん楽だとか。

風呂と玄関以外を全て引き戸にしたことも使い勝手のよさにつながっている

太陽光パネルから滑り落ちる雪が気になっていたが、積雪量が多かった昨冬も屋根の雪止めが見事に働き、落下はなかったという

ちなみに、周囲から「BBQをするのか」と聞かれるほど広いウッドデッキは、庭を狭めるための対策です。以前の家で夏に庭の芝刈りをしていた際、何度も熱中症になったことから、極力、庭に手をかけなくても済むようにしたそうです。

その庭自体も、偶然にもRebornのように自然素材を好む庭師により、人工的な要素を取り入れないコンセプトで造られました。車庫の床面はコンクリートで固めず、枕木と砂利を配置。一般的にブロックが設置される倉庫の基礎部分には、大谷石が使われています。

広いリウッドデッキはリビングからフラットに広がるため、よりリビングが広く感じられる

庭も家と同様、空気の循環や風通しを考えてつくられている

弥生さん:
「せっかく環境に恵まれた地に住んでいるのだから、自然を壊すよりは、少しでも環境保護に貢献できたらいいかなと思っています」

茂さん:
「特別、自然に対する強い思いがあるわけではありませんが、無駄なことはしたくないですし、自然に対して負荷をかけないほうがいいとは思っています。それが貢献につながっていたらいいな、という思いです」

二人と話していると、全体的に無理のない暮らしぶりがとても心地よく、自然体の会話からはお互いにリスペクトしている雰囲気も伝わってきます。それゆえに、大切にしているのは“自分たちの住みやすさ”。将来的にたとえ夫妻で施設暮らしとなり、住まいを手放すことになるとしても、今は売却を前提とした維持管理などは考えていないそう。

結果、今の暮らしには、なんの不足や不満もないと話します。それは、それぞれの生活リズムやくつろぎ方、趣味趣向が確立しているミドル世代で家づくりをしたからこそかも知れません。

弥生さんの趣味は韓国ドラマの視聴と韓国語の習得。リビングとダイニングに1台ずつテレビがある

茂さんのロードバイクを2階に設置しているのは玄関をすっきりさせるため。兵庫県の家でも2階に置いていたとか

記者感想

家を建てる年齢は子育て世代である30代が最多とされていますが、若いうちの家づくりは、家族やライフスタイルの変化への対応が求められます。一方、50代になると家族形態も変わらず、夫婦の生活リズムも大きく変わることがないため、自分たちの好みや大事にしたいこと、暮らしにおける優先順位などにこだわって設計することができます。また、お互いの趣味趣向も性格もわかり、ある程度の人生の方向性も定まってくる年齢のため、家づくりの考えをすり合わせるに当たっても、余計な配慮も不要かもしれません。

これまでの経験と感性をもとに価値観を見つめ直した「住み替え」で、お互いに安心でき、心穏やかな暮らしを手に入れた千葉さん夫妻。なにより息の合った会話の掛け合いから漂う空気感が、50代の家づくりの魅力を伝えているようで、素敵な第二の人生の選択肢だなぁとしみじみ思ったインタビューでした。

ライター:合同会社ch. 島田浩美 

写真:FRAME 金井真一 

千葉様
安曇野市 千葉様
家族構成夫・妻
敷地面積333.99㎡
建築面積92.74㎡
床面積1階90.26㎡、2階36.43㎡
延床面積126.69㎡(38.25坪)
竣工2021
断熱床:HGW(高性能グラスウール)16K 245㎜ ※浴室・玄関は基礎内断熱スタイロエースⅡ3種B 外100_㎜ 内50_㎜ 土間床50㎜
外壁:HGW16K 210㎜(軸間105㎜/外張り105㎜)
屋根:吹込GW35Kサンブロードライ300㎜
1階下屋平天井:吹き込みGW(グラスウール)35Kサンブロードライ250㎜
家のスペック屋根:ゴムアスファルトルーフィング940+砂粒付ガルバリウム鋼板基材 ディプロマット
外壁:スイス漆喰、カルクファサード左官仕上げ
玄関ドア:ガデリウス スウェーデンドア(Rebornオリジナル面材貼り)
窓:樹脂サッシ(トリプルシャノン) アルゴンガス入り LOW-E三層ガラス 樹脂スペーサー
換気:第三種セントラル換気 日本住環境 ルフロ400+ダクト配管φ100㎜ DCモーター
冷暖房:壁掛けルームエアコン1台
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