再生可能エネルギーや省エネに関わる仕事も踏まえ、高い断熱性による快適な暮らしをかなえたYさん家族。子どもの乳製品アレルギーも考慮して素材選びも慎重に行い、環境への配慮と家族の健康を両立させた家づくりを実現しました。心地よく安心な日常を育む住まいを訪ねました。

家族のスケジュールを念頭に“今しかない”と臨んだ家づくり
「おーい!」
吹き抜けの上階から子どもたちのにぎやかな声が響き渡るYさん邸。長男(8歳)・次男(5歳)・長女(3歳)の3人が元気に走り回り、近所の友だちが遊びに来れば家の前で野球が始まります。そんな子どもたちの様子を温かく見守る夫のTさんと妻のIさん。家づくりのきっかけを尋ねると「昔はママとおとう(お父さん)で、ずっとおうちのケンカをしていたから」と次男のRくんがすかさず返答し、家族の明るい笑い声が広がります。
Iさん
「以前は夫の職場の宿舎暮らしで、隣の家と壁一枚でつながっていたので音に気を遣いましたが、今は子どもたちがどんなに騒ごうと気にならず、快適で開放的ですね。結局、子どもたちがうるさいのは変わらないんですが(笑)」

和気あいあいとした雰囲気のYさん一家

仲睦まじい長男と次男
家づくりは以前から考えていたそうですが、3人目の長女が誕生し、宿舎が手狭になったこともあって現実的に見据えるようになりました。また、夫婦共働きであることから、Iさんが育休中で比較的時間が取れ、さらに長男の小学校転校を考慮すると「今しかない」というタイミングだったそう。
希望したのは、機能性が高くてランニングコストがかからない家。土地は宿舎がある長野市の周辺地域に利便性のよさを感じていたものの、中野市にあるTさんの実家敷地を活用することで土地購入費を抑え、その分の費用を住宅性能にかけることにしました。

中野市のTさんの実家の土地を利用。外観はRebornで定番のスイス漆喰・カルクファサードの左官仕上げ

2022年に長女が生まれたことが家づくりのきっかけに

玄関は台形屋根にすることでデザイン性を高め、広い下屋により雨の日も駐車場から濡れることなく室内に入れる

二つの下屋がある総2階の造り
住まいの機能面にこだわった理由は、Tさんの仕事にもあります。数年ごとに人事異動がある職場で新たに再生可能エネルギーや省エネに関わることになり、住宅の高断熱・高気密化や環境性能の高い家づくりの知識も得るようになったのだとか。とはいえ、その前の部署は全く異なる業務で、異動当初はわからないことも多かったそう。ある日、業者に聞きたいことがあり、取引先リストの一番上にある業者に電話をして問い合わせたところ、さまざまな質問に対し丁寧に答えてくれたのがRebornの設計士・塩原真貴さんでした。
そこで、こうした経験も踏まえ、住宅会社選びはRebornを含めた高気密・高断熱の住まいづくりを得意とする4社をTさんがピックアップ。そのなかから家族で完成見学会などに参加することにしました。

「長男の転校を考えると、2024年3月末の完成希望でした」と振り返るTさん。現在はまた新たな部署に異動になったそう

室内の至るところから家族仲のよさが伝わる
見学会を参考に、家づくりの疑問も解消
長男の転校のタイミングから逆算すると、家づくりにかけられる期間は約1年半。待ったなしの状態でいくつかの住宅会社の見学会を経て、Rebornの完成見学会に参加したのは終盤でした。予約枠は最後の時間帯。ほかに待っている参加者もいなかったことから、見学後、Tさんは複数の会社を回るなかでずっと抱いていた家づくりの疑問や悩みを塩原さんに尋ねてみたそうです。
Tさん
「住宅会社ごとに『断熱材はこれが一番いい』『この断熱材じゃないと壁の中が結露して大変』など意見が異なるので、結果的に何がいいのかわからず気になっていました。その疑問を率直に塩原さんにぶつけてみると、それぞれの素材のメリットやデメリット、結露のしやすさなどを詳しく教えてくれ、最終的に終了時間を2時間以上オーバーしてしまったのに、嫌な顔をせず対応してくれたんです。いろいろなことが聞きやすかったですね」
Iさん
「塩原さんは、いいことはいい、悪いことは悪いと答えてくれ、表裏なく必要なものと不要なものを伝えてくれる点にも惹かれました。他社の見学会では、悪く言えば“押し売り感”のような営業姿勢を感じましたが、Rebornでは感じず、時間がないスケジュールについて相談できたのもよかったです。『この会社で建てたらいい家ができそうだな』と思いました」

リビングを中心とした吹き抜けのある設計は塩原さんが得意とするもの

「Reborn以外の業者の見学会にも参加することで比較できたのもよかった」と振り返るTさん
さらにデザイン面も、Rebornの素朴で気取らない家づくりに魅力を感じたと言います。
Iさん
「他社には『おしゃれだな、素敵だな』と思う家もありましたが、自分たちが暮らすとなると、Rebornの素材感のほうが合っていて自然体でいられると感じました」
こうして住宅会社をRebornに絞った後は4回ほど完成見学会に参加し、塩原さんにさらに深い話を聞いて自分たちの家づくりのイメージを固めていきました。

1階のリビングは北海道産ナラの上小節の無垢材を使用

玄関脇のシューズクロークは見学会を参考に希望したもの。ビビッドな色のパネルヒーターがアクセントに
吹き抜けやリビング階段で家族がつながる暮らし
希望をした間取りの一つは、吹き抜けのあるリビングダイニングです。見学会で見て、開放感と明るさに惹かれたそう。こうして、4.5坪(9帖)という大きな吹き抜けのあるリビングダイニングが完成しました。
Iさん
「実際に住んでみると、こんなに吹き抜けが広くなくてもよかったかなとは思いますが(笑)、室内のどこにいても子どもたちの気配を感じられ、それぞれの声が届くうれしさや安心感もありますね」
南西の大開口窓により、広いリビングダイニングがより明るく開放的な空間に。ただ、夏の暑さや日差し、冬の寒さ、音が響き渡る設計で気になる点はないのでしょうか。
Tさん
「大開口ですが、夏は日差しが入らず、冬は室内まで日光が届くように軒を設計してもらったので不都合はありません。真夏はどうしても2階は暑くなりますが、日中に直射日光は入りませんし、採光がしっかりとできるのもいいですね」

直射日光が入らない長い軒の下屋は雪対策で一寸勾配の頑丈な設計に

2階の庇も日射を考慮した設計で、キャットウォークにより吹き抜け上部の引き違い窓を開閉できる
冷房設備は1階に設置した2台のHR-C(除湿型放射冷暖房)と2階のエアコン1台のみですが、なんと1年間暮らしてみて、エアコンを使ったのは真夏の数回のみだそう。冬の暖房はHR-Cとパネルヒーターを使用しています。
Tさん
「エアコンの冷房の風が苦手で、使用頻度が高い1階はHR-Cを入れました。決して安い設備ではありませんが、快適なので入れてよかったです」

リビングに設置したHR-C

もう1台のHR-Cはリビングに隣接した夫婦の寝室(和室)に。床はヒノキの羽目板の床畳
ちなみにHR-Cの冷水の温度設定は17~18℃。以前はもっと低く設定していたそうですが、1年点検で塩原さんや設備会社である信越ビーアイビーの担当者に適温を質問し、現在はこの温度を基準にしています。まだ扱いが不慣れな分、HR-Cからの水滴の掃除が大変な面はありますが、それでも快適さが勝るとIさんは話します。

HR-Cの冷水の水滴で子どもたちが遊ばないようにこまめに掃除も

引き違い窓が多いものの、シャノン製の最新樹脂サッシNS×50を採用したことで、C値0.4の高気密を実現
ほかにも、Yさん一家ならではの驚くべきリビングの活用法が、バドミントンのシャトルの壁打ちです。Tさんは学生時代にバドミントン部で、今は長男と次男もバドミントン教室に通っており、好きな時にリビングでラケットが振れるのがうれしいのだとか。
Tさん
「壁の素材も一般的なクロスならボロボロになりますが、スマッシュを打っても汚れないのは漆喰材だからではないかな」
十分な広さや高さがあるからこそできるリビングの使い方です。

見事な壁打ちを見せてくれた長男

次男も壁打ちを披露

抜き抜けの高さを利用し、Tさんがシャトルを投げて長男が拾う練習も

室内で鉄棒ができるのも、広いリビングだからこそ
リビングからつながる広いデッキテラスも、半屋外の子どもたちの格好の遊び場に。リビングから目が届くので安心です。
Tさん
「デッキはここまでの広さはイメージしていませんでしたが、使い心地はすごくいいですね。洗濯物を干したり、子どもたちが寝転がったりして遊んでいるので、作ってよかったです」
さらに、リビングから2階へとつながる階段もご夫妻の希望でした。子どもたちが思春期を迎えても、帰宅した際に自然と家族で顔を合わせられる動線を考えたとか。ファミリークローゼットや玄関ホールなどの共有スペースもリビングを中心に設計されているので、家族のコミュニケーションが自然に生まれています。

リビングとフラットにつながるデッキテラスは屋根付きの中間領域として、家族の憩いの空間に

リビングから出てすぐにシャボン玉で遊べるのは、屋外のデッキテラスならでは

リビング階段は家族が顔をあわせるだけでなく、空間の省スペース化も図れる

洗面台からファミリークローゼット、脱衣室は回遊性のある動線に
家族が向き合える便利な対面キッチン
対面キッチンも、料理をしながら家族や遊びに来た友だちと会話をすることが憧れだったというIさんの希望でした。キッチンからテレビを見られるようになった点もよかったと言います。
キッチンの通路幅は子どもたちと料理をすることを考慮し、塩原さんからの提案で通常より広めの1m30cmに。調理道具を持っても余裕をもって動ける広さです。また、造作の食器棚も使い勝手がよいとIさん。
Iさん
「食器棚は造作にするか既製品にするか悩み、4社のショールームを回りましたが、費用があまり変わらなかったので造作にしました。吊り戸棚を設置して扉を磨りガラスにし、カップボードは扉を付けずにオープンにするなど、要望を取り入れてもらったことで使いやすいですね」

子どもたちと一緒に作業をしても余裕がある広いキッチン。床はあえてビニール系にせずリビングと同材に

対面キッチンに1帖のパントリーを併設
ほかにも、キッチンとリビングの間のエアコンニッチ周辺の壁は、学校関連の書類などを貼っておけるマグネットウォールに。リビングのテレビ台や洗面台の棚、トイレの棚なども造作にし、使いやすさを実現しています。

吊り戸棚には磨りガラスを設け、ソフトクローザーの扉で使いやすい

カップボードに扉を付けなかったことで、使用頻度が高い食器やカトラリーがすぐに取り出せ、子どもたちにとっても使いやすいスペースに

マグネットウォールも見学会を参考に取り入れたもの

リビングに面した洗面化粧台は組み合わせ造作で、タイルがアクセントに。トイレの棚も造作
将来性も考えた間取りと耐震性
1階の一角に和室を設けて夫婦の寝室として使い、2階は3室の子ども部屋とワークスペースのみの間取りになっているのもY邸の特徴です。老後は2階を使わず1階で完結できる暮らしが考えられた間取りです。

い草の畳を敷き、低めの天井で落ち着きがある6帖の和室空間

現在は家族の寝室として利用
階段を上ってすぐのワークスペースは、家族が誰でも使えるフリースペース。Tさんがパソコン作業をしたり、子どもたちがゲームをしたりして楽しんでいます。

家族が自由に使える階段上のワークスペース

書棚は階段の手すりも兼ねている

エアコンはワークスペースに設置。隣接する北西側に子ども部屋がある間取り

2階を3.5寸の勾配天井にして建物の高さを抑えているのは、Rebornのフリープランの特徴
3室の子ども部屋は、それぞれ独立した空間。当初は北西にある2部屋を仕切りなしの広い空間にし、将来的に子どもが大きくなったら間仕切りを設ける計画でしたが、耐震性能や、塩原さんからの「今は子ども同士でもプライバシーが大事」といったアドバイスを考慮し、最初から壁を設けることにしました。震度6強の大地震に対しても倒壊や崩壊しないとされる耐震等級3を実現しています。

初めから間仕切りを設けることで、将来的な工事が不要になるメリットも

西日が当たる北西の子ども部屋には、日射遮蔽を考慮したガラリ戸を設置

木製のガラリ戸は安曇野市にあるモカウッドジャパン製の変形しづらい無垢材を使用

2階はReborn初のクリのフローリング。ナラに似た硬い素材
アレルギー対策で譲れなかった漆喰材
子ども部屋は、それぞれ施主DIYによる漆喰のコテ塗りの跡が味わい深い空間です。ただ、実はこの漆喰材をめぐり一悶着があったのだとか。だからこそ、Yさん家族が納得の住まいを手に入れたとも言えます。
というのも、次男のRくんには乳製品アレルギーがあるのですが、当初、塗装予定だったドイツ製の漆喰材には、接着材としてミルクカゼイン(乳タンパク質)が含まれていたのです。塩原さんにアレルギーについて伝えてはあったものの「大丈夫ではないか」との見解だったそうですが、「やはり母としては気になった」とIさん。
Iさん
「DIYで漆喰塗装を始めた際に成分表でカゼインという表記を見て、不安はありながらもその日は塗装しましたが、モヤモヤとした感情が消えず、翌日に輸入会社に電話で問い合わせてみたんです。すると『アレルギー反応が出ないという明確なエビデンスはない』と言われたので、塩原さんに再検討を依頼しました。せっかく自分たちの家を造るのに、アレルギーのリスクがはっきりしていないものを使うのは、申し訳ないと思いながらも譲れませんでした」

乳製品アレルギーがあるが、元気なRくん

ドイツ漆喰は伝統的にカゼインを接着材や補強材として加えるケースがあり、自然建材として古くから用いられているのだとか
結果的に塩原さんがカゼイン不使用のスイス漆喰(カルクウォール)を探し出し、下地材のクロスも貼り直してくれたそう。そのうえで、謝罪も兼ねて漆喰の塗装は施主DIYではなくRebornで行うと申し出てくれたものの、記念として、2階の子ども部屋だけは自分たちで塗ったそうです。しかし、それでも例外なく大変だったとか。
Iさん
「育休中で余裕があるのでDIYでできるかと思っていましたが、1日目で心が折れました(笑)。養生だけでも大変で、やはり職人さんがお金をもらって仕事として成立しているだけあると身に染みて感じました」
Tさん
「週末しか作業ができないので、結果的に3部屋だけでも2カ月かかりましたが、もう二度とやりたくないですね(笑)」
ほかにも床や天井板などの塗装もあったため、Iさんは長女を保育園に預け、さらに姉家族にも手伝ってもらってなんとか仕上げたそう。
Iさん
「育休中ではなかったら本当に無理でした。やはり、家づくりのいいタイミングでしたね」

カルクウォールはあらかじめ水で練られているもので、作業はコテ仕上げに

Iさんは「1階のプロの仕上げと比べると雲泥の差」と話すが、苦労の跡がいい味わいになっている

2カ月間、毎週末塗っていくうちに、少しずつ上達していくのも感じたそう

1階は左官職人が仕上げた本格的な漆喰壁
省エネ・創エネ・蓄エネも実現
Tさんの仕事柄、高気密・高断熱だけでなく、太陽光発電パネル4.92KWと蓄電池10kwhを装備しているのもY邸の大きなポイントです。
Tさん
「蓄電池は、太陽光の売電単価より電気代が高いと聞き、売るよりも貯めて夜間に使ったほうがお得だと考えて導入を決めました。ほかにも、ウクライナの戦争の関係で今後はさらに電気代が高くなることや、災害時に役立つことも考えました」

屋根の上に太陽光発電パネル4.92KWを搭載

日中に太陽光発電し、余剰電力を蓄電池に貯めて夜間の電力に使用
実際の光熱費は、春と秋は太陽光発電でほぼ電気代がまかなえ、夏も多少の電気代がかかった程度だったそう。冬は今までは宿舎で安く抑えられていたこともあり、思っていたよりも高かったようですが、今後に期待大とIさんは話します。
Iさん
「塩原さんに聞いたら1年目は家の木材が乾き切っていない分、暖房代のコストがかかると言われたので納得しました。2年目以降の光熱費が楽しみでもあります」
健康面も快適性も妥協せず、納得の住まいを実現したご夫妻。子どもの健全な成長をはじめ、家族で過ごす楽しさや老後の生活まで、代えがたい自分たちならではの家づくりで唯一無二の暮らしをかなえています。
Iさん
「塩原さんはわがままを言っても応えてくれ、聞きたいことを何でも聞けました。誠実な姿勢に信頼できたからこそ、いい家づくりができたと感じています」
Tさん
「家づくりを経験し、疑問は何でもぶつけてみることが大切だとも感じました。そのうえで、高断熱の家を造るならRebornで間違いなかったなと実感しています」


記者感想
家づくりで後悔を残さないために大切なのは、不安や疑問をそのままにしないことです。住宅会社選びにおいて、Tさんは断熱材などの疑問を塩原さんに尋ね、Iさんは漆喰の素材について自ら調べたうえで、塩原さんに再検討を申し出ました。特に漆喰の場合、一度塗り始めてしまった手前、不安を感じてもなかなか言い出せない葛藤もあったのではないでしょうか。それでも「母としては譲れなかった」というIさんの言葉に、家族のための妥協しない家づくりへの熱意が伝わり、だからこそ満足の家づくりを実現したのだと感じました。
また、TさんもIさんも気兼ねなく質問や意見を伝えることができたのは、塩原さん自身も信念を持って家づくりに臨んでいる姿勢が伝わったからでしょう。「こんなこと聞いたら迷惑かな…」という遠慮が残っていると、不安を抱えたまま住まいの完成を迎えることになります。どんな小さな疑問も解消することが、家づくりの成功の鍵なのだと感じた取材でした。そして、撮影中に子どもたちの友人が遊びに来て、自然と家の前で野球が始まった和やかな光景にも癒された、心温まる取材となりました。


