地方では特に、家を建てるときの選択肢の一つとして実家の存在があります。例えば二世帯住宅にして同居するのか、敷地内に家を建てて敷地内同居にするのか。今回取材したSさん夫妻は、妻のご両親が暮らす敷地に別の住まいを構えることを選びました。良い距離感と関係を築きながら暮らす、その住まいを訪ねました。

実家の敷地内に家を建てる選択
青々とした田園の向こうに、雲をまとう山々がゆったりと広がる安曇野の住宅街。心地よい日陰のデッキテラスでは、生まれたばかりの赤ちゃんとSさん夫妻、祖父母の3世代で過ごす、穏やかな時間が流れています。
2024年、妻の実家の敷地内に住まいを新築したSさん夫妻。当時、全体で約270坪(約890㎡)の土地には妻Aさんのご両親が暮らす家と、かつて祖父母が暮らしていた築50年ほどの古家がありました。相談の末、古家を取り壊してSさん夫妻の家を新築し、敷地内同居をすることにしたのです。
新居と実家は徒歩5秒。子育てが大変な現在は食事は実家で一緒に食べ、ご両親に子守りを交替してもらったり病院の送り迎えをしてもらったりと、「大いに助けられています」とSさん夫妻。子育てにはできるだけたくさんのサポートが必要だからこそ、ちょうどいい距離を保てる敷地内同居はベストな選択でした。

西側の道路から見た住まい。手前がSさん夫妻の新居で、右奥の煙突がある家が妻Aさんの実家

リビングで赤ちゃんの世話をするAさんのご両親
以前は松本の賃貸住宅で暮らしていたSさん夫妻ですが、30代半ばを迎えたことから、住宅ローンの返済を考慮して新築を考え始めました。計画当時は子どもを持つかどうかも未知数でしたが、意外にも敷地内同居を提案したのは妻のAさんではなく、夫のTさんだったそう。
妻のAさん:
「私の実家の隣で本当にいいの?やりづらくない?と、夫に何度も確かめました。でも本人はいいよと。昔から、父が畑仕事なんかで声をかけると、夫は進んで手伝いに行ってくれるんです。無理をしていなければいいなとは、いつも思っているんですけれど」
夫のTさん:
「そこはあまり気にしませんでしたね。別々に住んでいた時も、休日はしょっちゅう妻の実家へ遊びに行って畑を手伝ったり、遠方の甥っ子が遊びに来たら僕らも長く滞在したり、義父母と過ごすことが自然でしたから。僕の地元は県外ですし、仕事の都合で住んでいる松本で土地を買うよりも、妻が生まれ育った安曇野の方が安心だろうと思いました。もちろんお金の面でも。子どもが生まれてからますます義父母には助けられて、本当に頼もしい限りです」
建物を分けることで、それぞれの生活ペースと距離を保っていることが大きなポイントです。さらに「両親も、私たちにすごく気を遣ってくれていると思う」と口を揃える夫妻。親子といえど互いに踏み込みすぎないことが、うまくいっている理由なのでしょう。

おばあちゃんの腕の中ですやすやと眠る長男

Aさんのお父様とTさん。結婚前から仲が良いのだそう
Rebornの見学会で感じた「納得感」
Sさん夫妻が住まいづくりで一番大切にしたのは、“寒くないこと”。以前住んでいた賃貸住宅がとにかく寒く、「お風呂に入るのも嫌だし出るのも嫌だし、夜トイレに行くことさえ嫌だったんです(笑)」とAさん。寒さを防ぐには断熱性能が大切だと知り、ウェブサイトやSNSで情報を集める中でRebornを知りました。
夫のTさん:
「何かの記事で“スーパー工務店”と紹介されていたんです。とにかく断熱技術が高いと。Rebornは長野市の会社なので松本や安曇野からは遠いんですが、断熱を一番重視したので興味を持ちました。たまたま近い日程に完成見学会があったので、行ってみることにしたんです」
妻のAさん:
「その頃は毎週末のようにハウスメーカーの展示場や見学会に通っていて、どこも似たような内容だし何度もアンケートに答えるのに私が疲れてしまって。遠方が多いから休みがつぶれるし、ちょっと嫌になってきていたんですよね。でもRebornの見学会は、夫が『どうしても行きたい』と言って」

住まい南側のデッキテラスから美しい山々が見える

設計が決まった後、イメージを膨らませるためTさんが自分で作った模型。YouTubeを見ながら作ったのだそう
参加したのは長野市のYさん邸(https://reborn-nagano.co.jp/voice/62905/)の見学会。そこで出会ったRebornの建築士、塩原真貴さんの話は、他社のそれとはまったく違う印象だったと振り返ります。
夫のTさん:
「断熱のことも間取りの理由も、塩原さんが丁寧に理論的に説明してくれました。当時僕たちは平屋を希望していたのですが、平屋のメリットもデメリットもフラットに説明してくれて、そこも信頼できましたね。老後の生活や、将来的に家を誰に引き継ぐのかまで考えた方がいいことも、改めて気付かされた。断熱の話を聞いた時に『お二人は勉強不足ですよ』と言われたことが印象的でした」
妻のAさん:
「私たちが断熱についてまったく無知だったので、こりゃダメだと思われたと思います(笑)。塩原さんに断熱の本を渡されて、それを読んで勉強しました。他社はQ値やUA値といった断熱性を示す値もざっくりとしか教えてくれなくて、『平均的にこのぐらいです』とか、担当者が『僕も自社で家を建てましたけど、普通に暖かいですよ』と話すだけだったり、細かいことはわからなくて。でも私たちも専門的なことは分からないから判断できない……という状態だったのですが、Rebornは違いました」
※Q値:室内外の温度差が1℃の時、建物全体から1時間に床面積1㎡あたりに逃げ出す熱量を示す値。数字が小さければ小さいほど断熱性能が優れている
※UA値:家の中から外に逃げる熱の程度を示す値。こちらも数字が小さいほど断熱性能が優れている

2階の子ども部屋の窓から吹き抜けを介してダイニングと会話ができます

キッチンにはAさんの希望でディスプレイ棚を造作
夫のTさん:
「他社で『うちはUA値0.4ですよ、すごいんですよ』と言われて、後でネットで調べるともっと優秀な値もあってモヤモヤすることもあったんですが、Rebornで見せてもらったのは、正にそんな優秀な数値だったんです」
Rebornの家はUA値0.3前後、Q値1.0が標準。見学会で見たYさんの住まいはUA値0.25、Q値0.83と高い断熱性能を実現していました。また、Rebornが推奨する暖房のパネルヒーターや温水を作る太陽集熱器「LATENTO(ラテント)」、電気自動車のバッテリーに蓄えた電気を住宅でも活用できるシステム「V2H」などSさん夫妻が初めて見る設備も、エネルギーについて考えるきっかけになったと言います。
さらにRebornへの信頼を感じたのが、塩原さんが綴るブログ。「試行錯誤の跡が見えて、失敗も包み隠さず書かれているし、それをどう解決したかまで書いてあって信頼できました」と夫妻。こうしてRebornに家づくりを依頼することを決めましたが、人気の高さゆえ「今予約しても、スタートは1年後ですよ」と告げられたそう。
妻のAさん:
「1年待ちと言われて、正直ホッとした部分もありました。もともと家づくりは夫の方が乗り気で、私は職場が遠くなるし当時は子どももいなかったし、迷いが大きかったんです。他社では『今から半年で完成しますよ!』なんて言われたんですが、そんなにすぐ気持ちの準備ができないなと。1年待つ間に、家を建てることに気持ちがようやく追いつきました」

キッチンに立つAさん

ダイニングの家具はカンディハウスの製品。親戚が遊びに来た時など、大勢で囲む際は左右に天板を広げられるつくり
吹き抜けのホールを中心に、ゆるやかにつながる間取り
平屋を希望した理由は、老後を見据えて1階で生活が完結できるように。医療関係の仕事でリハビリに携わる妻Aさんは、「寝室が2階にあって上り下りが大変だから家に戻れない」と話す入院患者さんを多く見てきたといいます。しかし他社で提案された平屋の平面図は動線が複雑で、さらに建坪が大きくなるため庭で二世帯分の車を動かしづらくなることもデメリットに。塩原さんからも「敷地の使い方と日当たりを考えると、2階建ての方が良いと思いますよ」と助言を受け、2階建てに変更しました。
夫妻が希望した吹き抜けを中心に明るい光が満ち、室温が一定に保たれた住まい。1階は玄関ホールを中心にリビングとダイニングキッチンを東西に振り分け、北側に水回りと寝室を。2階には将来2つに仕切れる広い子ども部屋と、セカンドリビングとして使えるホールを配置しました。

奥がリビング、手前がダイニング。間仕切り壁はありませんが、中央の玄関ホールで空間を緩やかに分けることで気分を変えて過ごせるように

梁と柱がダイニングを緩やかに区切っています。縦格子の引き戸の中はボイラー室

1階北東側の寝室。道路からの視線が気にならない高さにL字型に窓をデザイン

セカンドリビングとして使える2階のホール
吹き抜けの広い玄関ホールは、使い方を限定しない自由な空間。廊下がないため、各部屋をつなぐハブのような存在です。この場所があることで家全体に余裕が生まれ、空間を広く感じます。
妻のAさん:
「玄関ホールと部屋の間に戸をつけるか迷ったんです。部屋が散らかっていると玄関から丸見えなので……。でも暮らしてみると、壁がないことで全部が近くにある感じで暮らしやすいですね。玄関から洗面カウンターに直行できるし、リビングからお風呂やトイレも近く感じる」
子どもが生まれることを想定してキッチンからリビングがよく見えるワンルームも考えましたが、「食事の場と、休憩したりテレビを見たりする場を分けた方がいい」と塩原さんにアドバイスを受けて緩やかに分けることに。その結果リビングとダイニングに違う個性が生まれ、気持ちを切り替えて過ごせる間取りになりました。

玄関を入ると吹き抜けの広いホール。夫妻の希望でリビング階段を設け、2階とも気配がつながるように。右奥が洗面室と浴室

ダイニングには無印良品の棚を置くため、壁のサイズを合わせて設計。ペンダントライトはデンマークのルイス・ポールセンのもの
悩んだのが子ども部屋です。計画中は子どもを持てるか分からなかったため、ハウスメーカーで「ご家族の人数は?」と聞かれて答えに迷うことがしばしば。全体の間取りも広さも決めかねていました。
妻のAさん:
「大きさが決まらないから予算もはっきりと出せない。でも塩原さんに話したら『それでも、早めに建てた方がいいですよ』ときっぱり言われて。未来は分からないけれど二人生まれることを想定して、広めの子ども部屋を作りました」
すると引き渡しの数カ月後に妊娠が分かり、無事に長男を出産。子ども部屋がにぎやかになる日も近そうです。

ごきげんの長男

キッチンから見えるリビングのコーナーをキッズスペースに。このソファも夫妻のお気に入りの場所
真冬も、春のように心地よい住まい
新居で迎えた初めての冬は、まさに希望した通り「家のどこにも寒い所がなかったです」と夫妻。各部屋に設置したパネルヒーターの温度を設定して24時間稼働させているため、冬も裸足で過ごせるほど暖かいことを実感しています。
妻のAさん:
「寒い外から帰ると心が安らぐし、家の中ではエアコンやファンヒーターのような温風もなく、空気そのものが暖かい。我が家を訪れた方が『春の心地よい暖かさ』と言っていて、すごく的確な表現だと思いました」

冷房用のエアコンは2階のホールに1台配置。階段や吹き抜けを通じて1階まで冷気が下ります

エアコンの冷気が1階まで送られるよう、壁の下に換気窓を設計。窓の向こうは壁に囲まれた1階の寝室
夏も、2階ホールに設置したエアコンの冷気が吹き抜けを通じて1階まで下りてくるため快適です。「間取り上、リビングと寝室は暑いかもしれないと事前に塩原さんに言われていました。確かにリビングは少し温度が高いので、アドバイス通りサーキュレーターを検討中です」と夫妻。
リビングは西日が入るため、葦簀(よしず)を外に立てるように塩原さんにアドバイスされたそうですが、ここから見える山の景色が気に入っていることから、今のところ置かないことを選択しています。こうした暮らし始めてから起こることの可能性を塩原さんがあらかじめ示してくれるからこそ、心構えや対策も考えておけるのは頼もしいポイントです。

リビングの窓からの眺め。外を人が通っても視線が気にならない高さとサイズ

階段もインテリアのポイントに
屋根には6.56kWの太陽光発電パネルを設置。それを生かして、エネルギーはオール電化を選択しました。給湯は、電力によるヒートポンプでお湯を作る「エコキュート」を導入しています。
妻のAさん:
「ガスも入れようか迷ったんですがうちは料理もIHヒーターで十分だし、基本料金も馬鹿にならないので電気に絞ることにしました。キッチンでこだわったのはミーレの食洗機を入れること。対応できるシステムキッチンの中から、リーズナブルなLIXILの製品を選びました」

計画当初から希望していた、ドイツ・ミーレの食洗機を愛用

コーヒーを淹れるのはTさんの担当
以前の賃貸住宅はプロパンガスだったこともあり、ガス代だけで冬は毎月3万円にも達していたそう。「家が寒かったので、何度もお風呂を追い焚きしていました(笑)」とTさん。以前の光熱費は年間トータル24万円ほどだったそうですが、現在はなんと半分の12万円に。さらに年間8万円の売電を実現しているため、実質4万円! 住まい自体の断熱性能が高いため、冷暖房で消費するエネルギー量が大きく削減されたことが分かります。
さらにTさんの希望で、家電やカーテンをスマート化。寝室の窓には後付け式のスマートカーテンロボットを設置し、時間に合わせて自動開閉しています。15時になると不在時もカーテンを自動で閉めて西日を遮ることで熱がこもるのを防ぎ、さらに朝になると自動で開くよう設定しているため、朝日で自然に目覚められる仕組み。空調も、夏は温度に応じてエアコンが自動でオン・オフする後付け式のスマートホームデバイスを活用。「どれもスマホで操作できるので、とても便利です」と話します。

エアコンとつながったデバイスを壁面に取り付けて、操作はスマホで

小型のスマートカーテンロボット。後から取り付け可能。カーテンは窓の形に合わせてオーダーしたもの
ダイニングとつながるデッキには深い庇をかけて、夏は心地よい日陰を作り、冬は高度の低い太陽光を室内に取り込みます。ご両親の家から一番近いこの場所は、二世帯で畑仕事をした後の休憩場所にも。春はおにぎりを握って、ここでランチを取ることもあるのだそう。子どもが大きくなれば、庭やデッキが三世代の憩いの場になることでしょう。

記者感想
仲の良いご両親とSさん夫妻。取材中もご両親がリビングでお子さんの面倒を見ていてくれたため、撮影やインタビューをスムーズに進めることができて助かりました。とはいえ義理の両親が隣に住んでいるのは、夫のTさんとしてはさすがに気を遣うのでは?と思っていましたが、ご両親のさっぱりとしたお人柄に納得。Tさんも、ご両親を心から信頼していることが伝わってきました。寝巻きのままで行き来できる距離感は、子育ての上で本当に助かると思います。
お住まいで印象的だったのは、2階の明るいホール。お子さんが大きくなったら、吹き抜け越しにご両親の気配を感じつつお友達とここで遊んだら楽しそうだなと思いました。あまり壁で仕切っていないのにゆるく独立した感覚があるところが、とても魅力的なお住まいでした。
