日常的なシーンも非日常として楽しめる家
記者2:
お伺いしたら、非日常と日常が融合していて、コーヒーを飲むという一連の動作も楽しんでいるような特別感がありました。
渡辺様:
そういう意味でいうと「別荘」に仕上がったと思います。
贅沢な時間が過ごせるので、思っていた以上によく仕上がりました。
2月にオープンハウスをした際に、来たお客さまの方々から「生活感がない」といい意味での形容詞をいただきました。
「生活感の無さ」ってどこなのか?ということになってきますよね。
うちもキッチンやトイレなど生活するための場所など、あるものはあるので。
記者2:
リフォームの全てがドラマチックでした。浴室もただ入浴する所ではな
く、例えば開口部は換気や採光だけではなく、外の景色を楽しめるように高さや窓の開閉方向も考えられていて、
全体のマテリアルやデザインも含めて本当に楽しめる空間になっていましたし。
渡辺様:
お風呂場は、ホテルに泊まった時に「こういう所はいいよね」と、イメージとなるお手本があったんです。
でも、キッチンは、そもそも窓があるキッチンが少ないですが、うちには窓がありますし。
収納が欲しいと、どうしても吊り戸棚を作るのが一般的ですが、うちは全部無しにしました。
木漏れ日の採光が美しい浴室
まるでラグジュアリーホテルのような洗面所とお手洗い
記者2:
キッチンは、流行りだとアイランドキッチンやカウンターキッチンにして目線の向きを部屋の内側へ向けるようにしますが、
そこをあえて外に向けることで自然が楽しめるようになっていますよね。
元々あった斜め天井もうまく壊さないで、そのまま活用して新しいものになっているのは計算の内なのでしょうか?
渡辺様:
直せば直すほど費用かかりますし。
私の父が建築家だったので、最初のイメージスケッチは父が描いていて、それを壊すのは勿体無い気持ちもありました。
記者1:
お父様は建築家としてどういうような建物を手がけていらっしゃったのでしょうか?
渡辺様:
父は日建設計という事務所で働いて、ホールなど大規模の建物に携わっていました。
中野サンプラザやNHKホールなどの設備。その後は、敦煌の壁画など文化財の修復で建築的なこともやっていたようです。
その頃に、よく海外へ出張してエキゾチックなお土産を買って来てくれたりしていました。
現在は純洋風の空間ですが、元々は典型的な和洋折衷型の家でした。
記者1:
お父様のこだわりを残しつつ、渡辺様の空間を変えたい気持ちが反映されているのでしょうか?
渡辺様:
実は、このテーブルは父方の実家にあったものなんです。
私の祖父が1960年位に父が設計して家を建て替えたのをきっかけに、コタツのある畳部屋から洋風の生活に変えて、その時に購入したテーブルで。子供の時から食事をしたりと思い入れのあるテーブルだったので、このテーブルをメインに空間のイメージやインテリアを考えていきました。ここがどことなく北欧風なのも、このテーブルに似合うインテリアを探していったからかもしれませんね。
家の設計は塩原先生にお願いして、インテリアは、新宿にあるO-Zoneのリビングデザインを担当していらっしゃる吉崎さんに依頼しました。
記者1:
そもそも、塩原さんに設計をお願いしようと思ったきっかけは?
渡辺様:
最初にO-Zoneに行ったきっかけは、あのベッドが欲しかったからなんです。
「人類進化ベッド」といって、チンパンジーは木の上に枝を組んで楕円形の寝床を作って寝るんですが、そのチンパンジーの巣を人間用のベッドに応用したもので、それが欲しくて、O-Zoneに行ったんです。
その頃は、まだ家をリフォームするか建て替えるかどちらにするか決めていなくて、吉崎さんが親切にしてくださったので相談したら、「まずインスペクションをしましょう」「断熱が大事」といろいろと教えてくれました。
それからインスペクションをしてくださる業者をまず探し始めました。自分より若い人がやってる事務所じゃないと、自分が歳をとった時に面倒見てくれないんじゃないかと思って、若い人がやっててインスペクションができるところを探して、たまたま塩原さんのところに行き着きました。
ダイニングテーブルでインタビュー中の渡辺さま
存在感のある人類進化ベッド
家をリフォームすることは、まさにドラマ
記者2:
塩原さんが携わってできたお家に住んでみて、塩原さんの仕事振りについてどう思っていますか?
渡辺様:
とにかくダメなところに対しては絶対に施主のいうことを聞いてくれませんから(笑)。
断熱や耐震などの安全性に関しては、施主が何と言おうとダメ、頑固は頑固ですね。
一方で施主が「こうしたい」という要望については、四方八方に手を尽くして実現してくれる。
設計者としての塩原さんと、工務店のディレクターとしての塩原さんの姿がありました。
設計者は図面は描くけど、細かいところは現場監督が決めていくものですが、映画に例えるとプロデューサーとしての塩原さんと現場監督がいて、その両者が私の意図を理解してくれる。
チームとしての総合力が高いと思いました。
タイル職人の方がこの工事の後で亡くなられたり、棟梁もその後、大病を患ってしまったと聞きました。
その方々にとっては最後に手掛けた家になるかもしれず、その勲章としてコンテストに応募してぜひ賞をとりたいと言っていて。
そんな一連のプロセスの中で、塩原さんには施主に対して設計家として向きあい、いっぽうでチームに対しての親分として率いている姿が感じられました。
家を造ることは、まさにドラマですね。ただ施主として「家をリフォームして住んでいます」というのではなく、建築期間中にいろいろと体験できたことは、建売では味わうことができない、ワンクールのドラマに脇役として出演した感じがして、とても貴重な経験ができました。
記者1:
家を建てる時には、目で見えない部分にいろんな人の思いやこだわりが込められていて、それを近くで見ることができるのはとても素敵な時間ですね。
普通は、タイル職人や棟梁のお名前など知らない方が多いですが、渡辺様は密接に関わっていらっしゃったんですね。
渡辺様:
そうですね。塩原さんの方から「どんどん現場見学に来てください!」と誘ってくださっていたので、現場見学に行く度に飲み物やカップヌードルを差し入れたりしてコミュニケーションを取っていました。
雨模様も似合う軽井沢らしい外観
丁寧に施工されたタイル張り
事前に作ったスクラップブックから、心のつながりがうまれる
記者2:
この家をリフォームするに当たって、全てにこだわっていらっしゃったと思いますが、その中でも一番思いを入れた所はどこですか?
渡辺様:
この家は本当にディテールが全体に行き渡っているんですけど、私がやったわけではありません。
そういう意味で、私自身が最も時間をかけたのは、塩原さんは「バイブル」と呼んでいるそうですが、このリフォームを始める前に私がインテリア雑誌を見ながら作ったスクラップブックです。
80枚くらいのグラビア写真を切り抜いて「台所のこの部分が気に入っている」とかを1冊作って、塩原さんとデザイナーさんに渡したんです。
この資料の作成に時間がかかって大変でした。でも、このスクラップブックのおかげで、施主の「いいように」が通じたんです。
だからディテールにこだわったというよりは、私とデザイナーさんと建築工務店の皆さんとのチームワークがよくて、そのチームワークを作る準備に時間をかけたことが一番よかったんだと思います。
記者1:
心のつながりですね!
間取り、採光、照明のバランスが整っていて落ち着いて過ごせる
渡辺様:
そうですね。だから最後は現場監督の方も私以上に私の好みがわかっている感じで、彼らの知識の中で「この人ならコレ」と見立ててもらう力がものすごく大きかった。
例えば、祖父が持っていた写真を額装しようとしたら「まあ、渡辺さんならこの額でしょう」と言って選んでくださったんです。
記者1:
塩原さんはじめ家づくりに関係したみなさんが、渡辺様のことを理解しようと努められたんでしょうね。
ただお金をいただいて言われた通りに作業するだけじゃなくて、本当に相手がどう思っているかや、何をされたら嬉しいかを汲み取っていたんですね。
渡辺様:
そういう意味で、家を建てるって面白いなと思いました。
記者2:
スクラップブックの作り手として、キッチン、リビング、廊下…とそれぞれのパーツのかっこよさを追求していくと、例えば洋風的なものの中に和風的なものが入ってしまうなど全体的なバランスが悪くなってしまうという難しさがあると思うんですが。
どう上手くバランスを取りながら掛け合わせていったのでしょうか?
渡辺様:
そこは私の趣味がいいか悪いかの問題になっちゃうと思うんですよね。
窓は、あそこしか開けられない場所で、ギリギリのところで合わせていただいて。
手すりの高さも全て現場合わせで、どんな手すりにするかは久保田現場監督さんが「渡辺さんならこれくらいかな」と読み取ってくださったんです。
記者1:
それから、スイッチの高さについて渡辺様からご指定があったとお伺いしましたが、この低さは何か理由があったのでしょうか?
渡辺様:
塩原さんのブログを読んでいて「スイッチは低い方がよい」と書いてあったような気がします(笑)。
あと、高いと目障りになるし、将来もし車椅子生活になった時に、スイッチは低くコンセントは高い方が楽だということはほんの少しは意識していますね。
遺品の写真を額装した廊下もモダニズムの感性に溢れている。
通常より低めに位置した照明スイッチ。
かけがえのない家族の思い出が、家の中で再生し続ける
記者2:
将来の話が出ましたが図面を拝見すると、2階はゲストルームで、1階は平面で全ての生活が賄えるような配置になっていて、セカンドライフも考えたかたちになっていますが、これは塩原さんのご提案なのでしょうか?
渡辺様:
それは私ですね。実は没イチ(配偶者と死別した身)で、3年前に妻を病気で亡くしていて、妻が入院していた頃に「元気になったら軽井沢の別荘を建て直して二人でゆっくり過ごそうね」と話していたんです。病院に『世界の名建築個人住宅編』など簡単に読める本を持ち込んで、妻が「こんなデザインが好き」と病床で話をしていたので、妻との約束という意味もあったんです。
記者2:
それでは、亡き奥さまの思いも詰まった家になったんですね。
渡辺様:
はい。妻の夢を私が代弁した感じです。この家は、父が建ててから弟や妹も使っていました。
私にとって、父や兄弟たちとの思い出も多くありますが、とくに思い入れが強かったのが2階の和室でした。
このリフォームで大きく変更しなかった部屋がこの和室であり、妻や子供達との思い出が詰まった部屋だったんです。
元の姿を保ちながらも綺麗に整わせた和室。
記者1:
思い入れの深い2階の和室ですがどのように使用されていたのですか?
渡辺様:
この部屋でいつも私たち家族が川の字になって寝ていたので、いじりたくなかったんです。
記者2:
そういえば、仏間は和室の中に入れるケースが多いですが、和室ではなく、あえてフリースペースのひらけたところに配置したのはなぜですか?
渡辺様:
家の中心だからです。
記者1:
あの畳が3枚並んでいたスペースが仏間だったんですね。
おそらく奥さまはとても喜んでいらっしゃるんでしょうね。
渡辺様:
喜んでくれていると思います。
記者1:
とても想いが詰まった家なんですね。
渡辺様:
家というのは、大事に使えば100年はもつもの。間取りをあまりいじらなかったのは、将来子どもが使うようになった時を想定して、間取りの可変性も意識したからです。
子どもの感覚は私と違うかもしれません、だから今は寝室とリビングの壁はつながっていますが、子どもが希望すれば壁を入れることができるようにしました。
仏間を部屋に閉じ込めず開放的な空間かつ、建物の中心に据えるレイアウト。畳に腰掛けて外の景色を亡くなられた方と一緒に過ごすこともできる。インタビュー後、この空間から受ける印象がとても強くなった
仏間のあるフリースペースは吹抜けから1、2階と家全体が見渡せ、大きな開口から365日、軽井沢の移りゆく四季も感じることができる。
やがて我が家になる、サードプレイス
記者1:
今回リフォームされたこの家にどんなタイトルをつけたいですか?
渡辺様:
「やがて我が家になるサードプレイス」です。
記者1:
その理由はなんですか?
渡辺様:
自宅でも会社でもない、大人の秘密基地という意味で「サードプレイス」、そして東京で仕事を辞めて軽井沢で新しい仕事を見つけた時には、ここに住むことになるので「やがて我が家になる」という意味です。
今は別荘ですが、通い続けるうちに自分と家が馴染んで、次第に我が家になっていく、そうんなイメージです。
記者2:
素敵なタイトルですね!「非日常と日常が混在している」と最初に言っていたことは、そういう意味があったんですね。
記者1:
数ある中から塩原さんを選んだ理由は何ですか?
渡辺様:
O-Zoneで建築家紹介していただいたんですが、この家をあまりごちゃごちゃいじりたくなかったんです。
例えば急勾配の階段をどうにかしたいなど、自分でやりたいこともわかっていましたし、基本的な設計も自分の頭の中にありました。
だから、O-Zoneで紹介されるような建築家の方にお願いするほどの仕事でもないと思ったんです。
意匠に凝るわけではないので、塩原さんが得意とする耐震・断熱で充分に目的は達成できると思いました。
私が求める分野が塩原さんの得意分野だったことが大きかったのかもしれません。
また、最初はこの家を建ててくれた地元の大工さんにお願いしようと思っていたところ、実力不足だったので、本来ならば設計監理がRebornさんで、施工がその工務店にお願いするべきところを、両方Rebornさんにお願いしました。
記者1:
こちらは名刺か何かですか?
渡辺様:
これは、1冊目のスクラップブックでメモばっかりです。
1月20日にO-Zoneへ行きはじめてから、セミナーを受けてメモを取ったり、頂いた名刺を整理して紛失しないようにしたり、いろんなことを記してあります。
去年2018年の2月はプランニングを考えていた頃でした。
塩原さんと最初に会ったのは2月28日で、実は当時は未だリフォームか建て替えにするかも決めていなかったんです。
塩原さんにインスペクションをしてもらったら、「基礎も柱もしっかり立っているから、建て替えるのは勿体無い」と言われたので、リフォームすることが決まりました。
4月の頃には、断熱を外側に付加すとか、耐震や階段をどうするかなどの打ち合わせが始まりました。
記者1:
建て替えだと、いろんなカタチのあるものがなくなってしまいますよね。
渡辺様:
できることならリフォームにしたかったので、リフォームにする方針が決まった時は安心しました。
記者1:
リフォームというのは、思い出を残しつつ新しいものを加えるという意味がありますね。
渡辺様:
そうですね。現実の問題としてゼロから作ると何ができるかわからないけど、今あるものから作るのであれば、ある程度は想像つきますよね。
私も実は、家を建てたことはないので「ゼロから何かしなさい」と言われるよりは、今あるものからどうにかしたいと思っていました。
例えば「台所が狭いから何とかしたい」という風に、今ある家の不満を図面的に解消していくリフォームの方が、はるかに易しくて安心です。
出来上がってビックリすることがないから、やりやすかったです。
記者1:
ズバリ、このリフォームに満足していますか?
渡辺様:
満足していますね。
記者1:
いつも別荘としてこの家を使われている際に、どんな過ごし方をしていますか?
渡辺様:
朝6時に起きて、散歩代わりにゴルフ場に行って、鳥の声を聞きながらウッドデッキでご飯を食べて、その後、庭仕事をする時もあればサイクリングをして、夕方は早めにお酒を飲みながらご飯を作って、作ったご飯でお酒を飲むんです(笑)。
記者1:
基本的に自炊されるんですね。皆でバーベキューもされるそうで。趣味が多彩で素敵なこだわりが沢山おありですね。
渡辺様:
さっきも言ったようにまさに「大人の秘密基地」ですね。大人買いで、今までできなかったことをここに全部入れちゃった感じ。
自宅はマンションなので、この家にイギリス製のスピーカーも入れて音楽鑑賞も楽しめます。
私は、ポルシェ1台買うよりも家にお金をかけたい方ですね。
別荘地らしい雰囲気を持ちながらも不思議と居心地の良さがある。
多くの椅子があり、寛ぐ時、読書の時と過ごす場所を変えているそう。とても贅沢な過ごし方で羨ましい。
モノに備わっている可能性を、最大限に引き出すことが大事
記者1:
実際には、リフォーム費用はどのくらいでしたか?リフォームだけで2,600万円位とか?
渡辺様:
もう少し高くて3,500万円です。床材などは塩原さんに「高い!」と大反対されたんですが、デザイナーさんに勧められて。
色味が気に入っていたことと、ガラス系の樹脂か何かを染み込ませてあって、20年間ノーメンテナンスでいいのが売りみたいで。
また、表面加工されているのでウレタン樹脂みたいにピカピカで木なんだけど木じゃない感じでもなく、質感はあるけれど、白木ではなく表面は汚れない。
ちょっと白っぽく染めてあるので北欧的な感じで、床の上に何を乗せても合うのでこれを選びました。
住設がちょっと高いので、同じようにリフォームして内装材とか住設がこんなに高いものを使わなければ、多分2,000万円ちょっとでできると思います。2,000万から3,500万円の差額がポルシェ1台ですよね。
だから塩原さんから「大丈夫ですか?」って心配されてしまったんですけど(笑)。
記者1:
家具など後付けであるものを合わせた費用はいくら位でしょうか?
渡辺様:
おそらく500万くらいですね。
記者2:
普段、建築雑誌の取材も同行しているんですが、正直に坪単価で考えると相場からしたらかなり費用が掛かっていると感じますね…。
渡辺様:
元の耐震と断熱がダメダメだったこともあり、金物入れたり補強したり、外装や屋根材もよいものを使っている分高くなっているんだと思います。
断然、建て直した方が安いでしょうね。
記者1:
玄関ドアもオリジナルとおっしゃっていましたよね。
記者2:
ご予算も充分にかけられていて、とてもこだわりがあるお家をつくられていると思いますが、よいところだけでなく、住んでみて「ここは違ったな」と思うところは?
渡辺様:
あまりありませんが「もうちょっとやっとけばよかった」と思うところはあります。
例えば、キッチンに収納するものは事前に把握しているわけですから、それらのサイズに合わせた棚の作り方があっただろうし。
でも当時は、いろんなことで力尽きていたので余裕がなかった。
もうちょっと最初から収納のことは考えておけばよかった、という気持ちは少しだけあります。
家って、ここで暮らすことの中のまだごく一部ですよね。私は3歳くらいの頃からの記憶がここの家にあって、その時に洗濯物をかけていた木がこんなに高く伸びたとか、以前の土地(場所)の記憶と一緒に暮らせることが悦びとしてあるんです。
部屋の中で落ち着くというよりは、ウッドデッキのチェアーに座りながら、低い目線で外の景色を眺めてるひとときが落ち着いたりして。
そこまで含めて家なので、家と敷地の一体感が大切。
記者1:
やはり環境ですよね。
大きな開口部とカウンター。
大人の余裕ともいえる贅沢な空間。
渡辺様:
実は見た目は変わってないんですが色味が変わっていて、以前は白い外壁材を使っていたので環境から浮いた感じになっていましたが、リフォーム後は落ち着いた色に変えたので、周囲の森林と同化して「落ち着いた家になった」と感じています。
記者1:
そう楽しそうに話してくださるので、私たちも楽しいです。
記者2:
正直、リフォーム費用を抑えて、その分ポルシェのような高級ハイパフォーマンス・カーにも乗ることもできたと思うんです。
そういう別荘と高級車の両方を手に入れた生活を想像しても、やはり今回のリフォームは大満足だと言えますか?
渡辺様:
私は、モノに備わっている性能を100%引き出すことが大事なんだと思います。
ポルシェは、ステータスとしてのポルシェであって、ポルシェに備わっているスピードは日本の道路環境や私の運転技術では100%引き出せないんです。
そこで、私はこの軽井沢ではMTの軽トラを所有しているのですが、軽トラでも、マニュアルミッションで小さい車のエンジンを高回転までまわして運転するのはスポーツで、モノの性能を最大限発揮させていると感じます。
家も同じで、スペックとして備わっているものをどうやって無駄にせず活かしていくか。
木の持っているポテンシャルを活かすとか、前に作った人の匠の技を活かすために、テクノロジーを導入してさらに寿命を延ばして快適に過ごしていくことがすごく大事だと思うんです。
建て替えた方が安いけど、その後結果的にみて、むしろ築27年の別荘が100年使い続けられるようにした方が、自分としては「お金を使ってよかった」という気がします。
記者1:
モノのポテンシャルを最大限に活かすって、すごくいい言葉ですね。
渡辺様は家だけに限らず、そういう生き方をずっとなさっていたのですか?
渡辺様:
仕事の関係でアメリカに住んだ時に、不動産屋が誇らし気に「この家はセンチュリーハウスです」と言っていました。
アメリカの住宅は、100年建っているからこそ価値があるんです。
日本もそうならないといけない。
今になって町家が注目されてきていますが、街並みの美しさも含めて、古くて美しいものに価値を見出すことができたらいいなと思っています。
記者1:
最大限に自分の能力を活かさないといけないのは、人間も一緒ですね。
人も車も家も、しっかりとパフォーマンスを発揮できれば見てくれる人はいますし。
渡辺様が初期に描いたイメージスケッチ
美しい無垢材のドア。どこから見ても美しい風景は計算だとすれば畏怖を覚える設計。
記者2:
冬は過ごされましたか?
渡辺様:
過ごしました。冬もよかったですね。メイスンリヒーター1台で家中ほとんど同じ温度で暖かいし。
記者2:
薪ストーブと違ってずっと点け続けなくていいと聞きましたが…。
渡辺様:
朝1回と晩1回焚いて、これ自体に相当な蓄熱量があるので夜9:00頃に燃やせば
朝まで室内の温度が全然下がらないんです。
記者2:
湿度も乾燥しないんですよね。軽井沢は冬寒いですよね?
渡辺様:
最低気温が-20度位でも、ガンガンに焚いておけば、朝、部屋の中は17℃くらいを保っています。
記者1:
東京より暖かい!
渡辺様:
冬は雪質の良いスキー場で滑ったりして。
記者1:
本当に多彩ですね!ぬくぬくの家の中で本を読まれていると思ったら、アクティブですね。
渡辺様:
GWは長かったですが、ずっとこっちにいました。
記者1:
いいですね!僕もいつかこの地に足を踏み入れられるように頑張りたいです!
メイスンリヒーターを間仕切りに採用して暖房効果と視覚的なヌケ感を作り出している。
家づくりの醍醐味は、さまざまな人と巡り合えること
記者2:
将来は我が家になるご予定がおありですが、この家の未来を見据えた時に「こういう風に生活していきたい」といったビジョンをお持ちですか?
渡辺様:
まだそこまで考えが及んでいません。東京からこちらへ生活の拠点を移したいと思っていますが、畑を借りて農業をやってるかもしれないし、なってみないとわからないですね。
記者1:
見える未来と見えない未来があるのは楽しみですよね。
渡辺様:
その時の直感で決めていく方なので、今から決めておく必要はないと思います。
環境がすごく大きいですから。
記者1:
リフォームされて、一番楽しかったことと辛くて大変だったことは?
渡辺様:
スクラップブックを作るのが大変でした。とにかくいい写真がないんですよ。
古本屋で北欧インテリア雑誌とかを買い集めて、積み上げて1mくらい買いました。
直感で好き嫌いで集めていくんだけど、そこからまた厳選していって。
大変だったけど、初めて自分の家やパーツに対するディテールや好みが出来上がっていったと思うんです。
見学ついでに現場を訪れると「ここどうするんですか?」と、即答を求められたりして大変だったけど、時間がかかって辛かったことが結果的に楽しかったことになりました。
記者1:
よい思い出にもなり良い経験にもなる。
渡辺様:
思い出の詰まった家だからリフォームをしたのですが、
昨年の2月から出来上がるまでのプロセスの思い出も出来たこともよかったです。
2F吹き抜けの大開口からも迫力のある景色を楽しめる。
「お客様の声・初」塩原氏を交えてインタビュー
記者2:
今回のリフォームについて、元の家からどうしたいというプランはありましたか?
塩原:
30年くらい前の家でしたが、間取りは現代的だったんです。
だからあまりいじらなくてもよいかなと思いました。
俗に言うスケルトンリフォームという、骨組みに近いところまで戻ってやるリフォームはあまり好ましくないなと思っていたので、この間取りを活かして。
渡辺さんの方で既にイメージをお持ちで、そこに技術的な肉付けしていく設計プロセスだったので、大変ではなかったです。
渡辺様:
私的には充分スケルトンリフォームだったんです。
階段はすごく悩みました。
私は絶対に緩やかな階段にしたかったけど、この長さの階段を納めるスペースがなくて。
塩原さんが構造的、断熱的にダメなところは譲りませんから。
塩原:
頑固といえば頑固だけど、家が「ダメ」と言ってたんです。
家の構造にあんまり逆らっちゃいけないと普段の設計から心がけていて。
記者2:
設計士として、ここをみて欲しいという所はどこですか?
塩原:
やはり壁厚ですね。
けっこうやれそうでやれないことなんです。
見てくれはどうにでもなるけど、断熱性能や耐震は普通の人じゃわからないから、そこを一生懸命やってます。
渡辺様:
細かいところまで見ていただいて設計しているなと感動しましたね。
塩原:
家って面白いもので、ちょっといじるとどこかにしわ寄せが出るようにできているんです。
だからこそ、しわ寄せを感じさせない設計をしたいと常日頃から思っています。
それと耐震。大きな地震が来ると建物は動くので、その時にどうなるか。
「誰かにいつか見られる。下手なことをするとバレます。」それが建築士。
だから「ダメなものはダメ」なんです。
「これで大丈夫じゃないか」と決めることは簡単だけれど、根拠を持ってないとノールールになってしまう。
渡辺様:
しっかりルールを持っていらっしゃるから、任せられるんです。
耐震もそうだし断熱は安心でできていると思うんです。
トイレも寒くて脳梗塞になってしまうこともある。(注:ヒートショック)
大事なのはデザインではなく機能、そこがプロに任せて安心なところです。
記者1:
施主と建築士、お互いのリスペクトがすごいですね。
塩原:
請負工事は信頼関係がないとできないです。
頻繁に足も運んでいただけたので、職人さんとの交流もそうですし、ジワジワと出来ていくのを見て「ここまで進んだ」、「来週はこうなるよ」って職人さんたちと会話する。
そういうのが尊いですよね。
渡辺様と塩原氏。大きな信頼を寄せ合って1つのモノを作り上げた実績がこの絆を生んだと気付かされる。
開口部を見ると、付加断熱を施工した、厚さ200mm断熱の迫力が良くわかる。
記者1:
お二人にとって、リフォームとは?
渡辺様:
ちょっとキザだけど「目指せ法隆寺」みたいな、80年の木だったら80年は長持ちするし、そういうものを塩原さんと一緒に作れたことです。
塩原:
家作りは、ほとんどは出会いなんですよね。
人間関係というか家づくりを通していろんな方と巡り合って、ご一緒できるということが楽しい。
記者1:
さっき渡辺さんも同じようなことをおっしゃってました。結局、人と人ですね!
記者2:
もし、ご友人を呼んで「ここを見て欲しい」と思うところはどこですか?
渡辺様:
キッチンからリビングの奥の窓まで見通しが利くのはこの家の大きな魅力ですね。
(取材班が見ても、窓自体は1枚ものではありませんが横に長く繋がっているように大きく見えるダイナミクスと開放感があります)
キッチンから部屋を跨いで繋がる開口部はたしかに美しい。
記者2:
最後に渡辺さんが「100年住める家」という自信がもてたのはなぜですか?
塩原:
木造は100年持ちます。でも基礎が持たないことが多いですが、この家は基礎がよかった。
渡辺様:
親父がこだわってくれたのかもしれません。
塩原:
科学的に分析したわけじゃないけど、地盤と基礎がしっかりできてた。軽井沢は真面目な方が多いんですよ。
傾斜地が多く難しい工事が多いのでプロフェッショナルな方が多くて、そういう人がこの家を作ったんだと思います。
記者1:
渡辺さんのノートを拝見しましたが、勉強したんだなと思いました。
塩原:
勉強すると似たような人が集まってきますよね。
私は普段ブログを書いているのですが、いろんな人のブログを読んだりして勉強している方が多いです。
記者1:
いろんなところからみなさんお勉強されて知識を得られているんですね。
びっしりと書き込まれたノート。
記者感想
リフォームは依頼して、住む。通常であればそれだけのことなのですが、
本来は家をつくり上げるという「クリエイティブ」なことなのだと再確認させていただきました。
また、こだわりの中にしっかりとした大黒柱のような芯があることでブレることのない完成となることも。
難しいと言われるリフォーム。思い出や、想い、情熱と出会いで建築物だけではなく、最上級な体験もできるのだと
本当に勉強になり、リフォームの話から「クリエイティビティとは」「仕事論」などに通じて深く考えさせられる1日でした。