暮らしのことば

悩んで、学んで、ぶつかり合って。4年かけて作りあげた「私たちらしい」住まい《後編》

長野県飯田市|間澤様|2018年
新築

「納得いく住まいを作りたい」と、新築を考えてから3年間リサーチを重ねた間澤さん夫妻。良質な天然木材を使った暖かい家を探して巡り合ったのが、「Q1.0住宅」とRebornでした。細部まで希望を反映できる注文住宅を選び、間取りや設備をじっくり吟味して後悔のない住まいを作り上げていきました。

詳しくは《前編》へ

飯田市の日照率を生かす太陽光集熱器

間澤家の外観を眺めて目に止まるのが、屋根に設置された急角度のパネル。これは太陽光発電ではなく、集熱のためのパネルです。間澤家では、ドイツ生まれの太陽光集熱器「LATENTO(ラテント)」のシステムを採用しています。

集熱パネルは太陽の高度が低い冬でも効率的に集熱できるように角度を設定

納戸の一角に配置したLATENTOの貯湯タンク。写真は竣工時のもので、現在は設備の前に簡易的な壁を立てている

日本ではまだ知名度の低いLATENTOですが、Rebornでは甲府の守矢邸に続く2軒目の導入。間澤さん夫妻も守矢さん宅の見学を機に検討し、採用に至りました。

Rebornの設計担当・塩原さんいわく、LATENTOの仕組みは「お酒の熱燗と同じ」。集熱パネルで集めた太陽熱を住戸内に設置した貯湯タンクに送って中の水を温め、そこからさらに給湯と暖房用の温水(=パネルヒーター内で循環させる温水)に熱移動させるという仕組みです。

つまりタンク内には太陽の熱エネルギーがお湯に変換された状態で保管され(しかも500ℓも!)、そのお湯から熱交換された(お燗された)温水を住まいで使う、というわけです。

3年点検の際、壁を外して貯湯タンクを点検

手前の白い2基はボイラー。右奥に貯湯タンクが並ぶ

ソーラーシステムというと日本では太陽光発電がメジャーですが、LATENTOは「太陽エネルギーは電気に変換するより、ダイレクトに熱として使う方が効率的」という考え方から生まれたシステム。自然の光と熱で効率的にエネルギーをまかないたいと考えていた夫妻にとって、理想的でした。

優雅さん:
「特にいいなと思ったのは、設備の耐久年数が数十年単位と長いこと。太陽光パネルやエコキュートは10年15年で設備の買い替えが必要になることが多いそうなので、長い目で見た時に本当にエコロジカルな選択はどれなんだろう?と考えて。長く使えるLATENTOが、私にとって一番納得できる選択でした」

一樹さん:
「エコキュートのように、タンクに貯めたお湯が蛇口から直接出てくる仕組みが衛生的に心配だったこともありました。お湯ですから、貯めておけば雑菌が繁殖するんじゃないかなと」

優雅さん:
「そうですね。潔癖症というわけではないんですけど、二人ともそこに引っ掛かったことも大きかったかな」

太陽熱は天気に左右されるため、熱源には灯油も併用しています。住まい全体に占める太陽熱エネルギーの割合が上がるほど省エネになる仕組み。住み始めて1年目はLATENTOの設定ミスがあって想定以上に灯油を消費していたそうですが、今では大きな省エネ効果を感じています。

一樹さん:
「設定を変えた2年目からは、灯油の消費量がぐっと減りました。特に夏から秋の初めは給湯をすべてLATENTOでまかなえるので、灯油はほぼ使いません」

南向きの造作カウンターデスク前面にも大きな窓をレイアウト

晴れの日が多い飯田市は日差しが気持ちいい。庭はDIYで人工芝を敷いた

導入時の費用は約150万円。塩原さんによれば、約10年で元を取れる試算です。とはいえ、国内でまだ前例の少ない海外製品のLATENTOを導入するのは勇気がいったのでは?と夫妻に尋ねると、「悩みましたが、最終的には塩原さんが推薦してくれたので大丈夫だろうと思いました」と二人。塩原さん自らドイツのメーカー本社まで視察に行った様子を綴ったブログ記事も、後押しになったといいます。

優雅さん:
「日本のメジャーな製品のようにボタン一つで簡単に操作できるわけではないということは、事前に塩原さんがきちんと伝えてくれました。慣れが必要だけど、そういうものだからねと。それを知った上での決断でした」

一樹さん:
「太陽光発電には売電できるメリットがありますよね。自治体にもよりますが、補助金の額も数十万円単位だと思います。一方で、我が家がLATENTOを導入した時の補助金は15,000円ほど(笑)。その差も、LATENTOの導入が増えない理由かもしれません」

浴室や洗面室の給湯、温水パネルヒーター内の温水に太陽熱を活用。トイレも温水パネルヒーターを設置して快適に

正面奥が洗濯機を置いた脱衣室。「洗濯が終わったら、いったん天井のポールにハンガーでかけて、揃ってからまとめて2階へ移動させると便利です」と一樹さん

注意しなければならないのが、気温の高い真夏。貯湯タンク内のお湯の温度が80℃以上まで上がると、設備の破損につながりやすいのです。お湯の温度が上がってきたら給湯をどんどん使い、タンク内の湯を循環させなくてはなりません。

優雅さん:
「実際、夏の暑い日に温度表示を見たら77度まで上がっていたこともありましたよ。その時は、洗濯機をほぼ熱湯で回したりしてお湯を消費しました(笑)」

一樹さん:
「夏休みに旅行などで家を空けることがあったら、その間はちょっと怖いですよね」

そして「あえて後悔した点を挙げるなら」と教えてくれたのが、貯湯タンクとボイラーをキッチン裏の納戸の一角に設置したこと。住み始めてみると、高温になる貯湯タンクの放熱で納戸に置いた野菜が傷んだり、ボイラーから漂う微かな石油の匂いが気になったりと、問題が出てきたのです。Rebornに相談し、今は貯湯タンクとボイラーの周りを簡易的な壁で囲っています。

キッチン奥の納戸。正面の簡易壁の奥に貯湯タンクとボイラーがある

「貯湯タンクは巨大で見た目のインパクトも大きいので(笑)、生活空間で見えているのも気になって」と一樹さん。貯湯タンクは屋外設置不可。本体は80cm×80cm×高さ2mで広いスペースが必要な点も、導入のネックになっています。

「完璧主義」ゆえに迎えた行き詰まり

設備から間取り、素材に至るまで、熟考を重ねて選び抜いた二人。その過程で何度も塩原さんに相談したため、「完璧主義者だね」と言われたそう。

一樹さん:
「僕らは石橋を叩いて渡るというか、何を選ぶにも『どちらがいいのかな』と悩んで、細かいことまで塩原さんに質問していました。するとだんだん、『とりあえずやってみてください』『やってから調整してみたら?』と言われるようになって(笑)」

広いリビングダイニングの奥にキッチン、さらに奥に納戸が続く。右奥が洗面室や浴室

リビングダイニングの梁の内部に照明器具を仕込んで間接照明に

家作りは決断の連続です。何を採用するか、希望と予算を天秤にかけてどちらを優先するか。間澤さん夫妻は細かな部分までとことん考え尽くすうちに思い悩み、一度だけ「家作りをやめようか」と考えたことがありました。

それは間取りの計画を進めていた時のこと。「こうしたい」と希望が具体化していくにつれ、金額が膨らんでいったことも大きかったといいます。

優雅さん:
「何が自分たちの正解なのか、考えれば考えるほどまとまらなくなってしまって。今思うと、完璧を求めすぎていたのかな」

一樹さん:
「建てたい家と予算とがうまく釣り合わなくて、無理して建ててもローンの支払いで生活が苦しくなってしまうのなら、果たして本当にそれでいいのかと。『今が本当に建てるタイミングなのかな』と話し合いました」

庭とデッキテラスのおかげで、コロナ禍も元気に遊ぶ景基くん

外壁は手仕事の跡が残る漆喰仕上げ

優雅さん:
「そんなことを言い出したら、家なんて建てられないですよね(笑)。でも、せっかく建てるなら妥協したくないっていう変なこだわりもあって。その思いを、二人で塩原さんに話したんです」

一樹さん:
「塩原さんは『今日は業者としてではなく、一人の先輩のおじさんとして話しましょう』と言ってくださって。振り返ると、そう言ってくれたことが本当に大きかったです。他社だったら、すぐに『それならもう結構です』と言われていたと思う」

塩原さんにそれまでの感謝を伝えつつ、「今は計画を進めていくことが難しいと思う」と正直に話した夫妻。塩原さんはじっくりと話を聞いたうえで「分かりました。やめるならそうしましょう」と受け入れ、一度は家作りを中止する結論に至りました。

庭には優雅さんが好きなハーブが植えられている

1年じゅう遊べる人工芝の庭。木製フェンスで道からの視線も気にならない

「今やめたら後悔する」と思ったから

塩原さんは、こうも告げました。「いつかもう一度家作りを始めることになっても、その時はうちはお引き受けできません」。計画が進んだ段階での中止ですから、それは当然のこと。夫妻も覚悟はしていたものの、だんだん「本当にこれでよかったのだろうか」と思いが募っていきました。

そして塩原さんを見送った後にもう一度、二人で話し合います。

優雅さん:
「やっぱり、今やめたら後悔するんじゃないかと思いました。せっかく探しに探して、自分たちにとって納得のいくRebornという会社に出会えたのに。これ以上の会社に巡り合えることは恐らくないだろうから、もし時期を変えて他の会社にお願いしたとしてもきっと悔いが残るよねと、二人で話をして」

一樹さん:
「お金のことも、『なんとか頑張ろう』と。もともとそこまで無茶な資金計画ではなかったんですが、額が大きいだけに慎重になっていたんですよね。けれどやっぱり後悔したくないと思ったから、塩原さんにその場でもう一度、電話をかけたんです。5分前に見送ったばかりなのに(笑)」

まだ高速道路に乗る前だった塩原さんは、すぐに引き返してきてくれました。夫妻は改めて頭を下げ、「もう一度お願いします」と伝えます。

3年点検に訪れた塩原さんと。今も住まいに関することはなんでも相談している

「あの時に決断してよかった」と振り返る夫妻

優雅さん:
「あの時期は私たち夫婦の間にも暗雲が立ち込めていて、なんだか私もイライラしていたし(笑)、気持ちがすれ違いがちでした。家作りは本当に、お互いの人間性や性格も含めた将来設計なんだなと思います。考えてみると私たち、結婚式の準備の時ももめたんですよ(笑)。どちらかが我慢するのではなく正面からぶつかって、お互いが納得いく結論を出すようにしてきたからだと思います」

住まい作りとは、暮らしを設計すること。時間がかかっても回り道をしても自分たちが納得いくやり方を探る道のりは、間澤さん家族にとって必要なことでした。

約40坪のゆとりを生かしたプランで暮らしやすく

紆余曲折を経て完成した住まいは、上下階合わせて床面積133.73㎡(約40坪)とゆとりのあるプラン。広さを生かして、快適に過ごせるよう随所がデザインされています。

例えばダイニングの窓辺に造作したカウンターデスク。将来、キッチンで家事をしながら子どもの勉強を見守れるようにと設計しました。現在は一樹さんのリモートワークにも活躍しています。

優雅さん:
「このカウンターデスクがあるおかげで、メインのダイニングテーブルが散らかりにくいんです。食事の時も、ダイニングテーブルの上の物をとりあえず移動させたり(笑)」

カウンターデスクで遊んだり勉強したりする様子を見守りながらキッチンで作業ができる

足元にパネルヒーターを設置して暖かに

キッチンは、対面カウンターと背面収納の間の通路幅を約2.3mに設計。Rebornの標準的な設計より25cm広いゆったりしたサイズです。これは、「家族でキッチンに立ってもスムーズに作業できるようにしたい」という夫妻の希望から。

一樹さん:
「アパートのキッチンは狭かったので、並んで作業はできてもすれ違うことができなかったんですよね。例えば奥さんがガスコンロの前で料理をしている間に僕が後ろで食器を出し入れしても、お尻がぶつからない距離にしたくて。空間にゆとりがあると、小さなことにもイライラしなくていいですね(笑)」

大人が楽々すれ違える幅を確保。料理は主に優雅さんが担当し、盛り付けや配膳は一樹さんと景基くんがサポート

キッチンの手元がダイニングから見えないよう、目隠しの立ち上がりをカウンター前面に設けた

広いウォークインクローゼットが1・2階両方にあるのも魅力です。1階にはオンシーズンの衣服と下着を家族分すべて収納。脱衣室から直行しやすい配置にすることで、お風呂上がりや朝の身支度も時短できます。対して2階のウォークインクローゼットにはシーズンオフの衣類を収納。衣替えの際にまとめて入れ替えておけば、普段の着替えや乾いた洗濯物の収納は1階で完結します。このレイアウトは、優雅さんのアイデアなのだそう。

優雅さん:
「できるだけ家事の手間を省きたくて。着替えのたび2階に上がる手間を考えると、1階にウォークインクローゼットがあると便利だろうなとずっと思っていたんです」

洗面室の隣のウォークインクローゼット。家族のオンシーズンの衣類はすべてここに

ゆったりした収納スペースがもう一つ。キッチン西側の、機械室を兼ねた納戸です。部屋ひとつ分の広さがあり、パントリーとして食品ストックや野菜、普段使わない鍋などを収納するほか、保育園関係の書類など雑然としがちなものを収めるのに大活躍しています。

土間がある勝手口があるのも嬉しいところ。ゴミがたまったら一時的に納戸に保管して、勝手口からゴミ集積場へ出せる「ゴミ動線」に配慮しています。

キッチンから出入りする納戸。食材ストックから書類まで、隠したいものをまとめて収納

来客時は納戸との間のロールスクリーンを下ろして目隠し。キッチン収納上部に設けたスペースは優雅さんが好きなものを飾る場所。「見るたびに気分が上がります(笑)」

2つのウォークインクローゼットに納戸と、充実した収納スペースは暮らしやすさの大きな味方。見えない場所にたっぷり収納できるので、リビングダイニングやキッチンをすっきり保つことができています。

壁をにぎやかに彩るのは、景基くんが描いた絵や塗り絵。「ここに貼って!と自分から場所を指定するんです」と笑う優雅さん。そんな優雅さんは現在、自宅で新しい仕事を始めるべく準備を進めています。それは、東洋医学の観点から食事による体質改善をアドバイスするカウンセリングの仕事。以前はリハビリテーションの仕事についていましたが、「病気になる前に体の状態を整えることができたら」と、食を柱にした勉強をスクールに通いながら開始。将来は、自宅でオンラインによるサービスを始めたいと考えています。

景基くんが成長するにつれて、壁の絵が増えていくのが楽しい

カウンターデスク脇には、景基くんが描いたお父さんとお母さんの絵

庭で育てたハーブをブレンドしたオリジナルのお茶を淹れる優雅さん

家族の成長が住まいをもっと豊かにしてくれる

家というステージが、仕事や日々の暮らしを豊かに変えていく。変化しながら自分たちらしく彩っていくからこそ、住まいへの愛着は増していきます。竣工してからが、本当の住まいづくりのスタートなのかもしれません。

記者感想

ご夫妻ともに住まいづくりへの熱量が高く、小さな迷いもきちんと言葉にして話し合ってきたことが、インタビューから伝わってきました。家族同士で、そしてRebornとも丁寧なコミュニケーションを行うことが、満足いく住まいづくりにつながったのではないでしょうか。

ライター:石井妙子 

写真:FRAME 金井真一 

間澤様
長野県飯田市 間澤様
家族構成夫・妻・長男
敷地面積280.82㎡
建築面積98.95㎡
床面積1階:79.08㎡ 2階:54.65㎡
延床面積133.73㎡
竣工2018
断熱床断熱:HGW16K195㎜ ※浴室・玄関は基礎内断熱:スタイロエース3B 外100㎜内50㎜床50㎜
外壁:HGW16K 軸間120㎜/外張り100㎜KMブラケット
1階下屋平天井:吹込みグラスウール30K 300㎜
2階平天井:HGW16K 200㎜+GW30K 180㎜ ブローイング
家のスペックドア:高断熱木製ドア ガデリウス(Rebornオリジナル eZドア)外#02 中#04
窓:樹脂サッシ(シャノンウインドIIs)外ホワイト/内ホワイト アルゴンガス入り LOW-Eペアガラス 樹脂スペーサー 南のみ断熱クリア、他は遮熱グリーン 半外付け
換気:第三種セントラル換気 日本住環境 ルフロ400+ダクト配管φ100mm DCモーター
冷暖房:PS温水パネルヒーター暖房システム10台 灯油式温水ボイラー(室内設置) ルームエアコン2台
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