リノベーションか、建て替えか。自分たちにとってベストな家づくりを追求
交通の便がよい長野市の近郊住宅地の一角。幹線道路沿いに位置する山本邸は、ご主人が営む学習塾との併用住宅です。13 年前に購入した中古住宅をリノベーショ ンしましたが、そこに至るまで一筋縄ではいかなかったそう。改修するか、それとも建て替えるか。決め手となったのは、Reborn との出会いでした。家族の思い出も残しつつ、唯一無二の空間が生まれました。
立地に惹かれて購入した中古物件をリノベーション
郊外型店舗が建ち並ぶ主要道路沿いに佇む、インパクトのある箱型の外観。高い耐候性や耐久性を発揮する樹脂サイディングの外壁に自然の風合いを生かした板張 りを組み合わせ、一見すると学習塾とは思えないデザインです。
南側の正面玄関が塾の入口。中に入ると玄関ホールから机が並ぶ教室へと続き、その一角に、ご主人・次郎さんの仕事スペース兼面談室が設けられています。
では、まずは山本さんたちのご紹介を。次郎さんは 20 年ほど前から学習塾を経営。 自ら講師も務め、妻の栄子さんと高専生の長女、中学生の長男との 4 人暮らしです。
もともとは自宅とは別の場所を借り、家賃を払って学習塾を営んでいた次郎さん。 しかし「いずれは塾と住宅を併用したい」との思いがあったことから、長女が年中だった 13 年前、好立地だった現在の中古物件を購入しました。築 15 年ほどの店舗併用住宅です。
しばらくは住居のみに使っていましたが、住宅ローンを完済した 10 年目のタイミングで決意したのが、今回ご紹介する念願の学習塾併用住宅のリノベーションでし た。
こうして、ご夫妻の住宅会社巡りがはじまります。新築かリノベーションか迷いつつ、ハウスメーカーから個人の工務店まで、さまざまな住宅展示場や完成見学会を訪問して相談。すると、どの業者でもことごとく「リノベーションはやめたほうがいい」と即答されたといいます。
栄子さん:
「はなから『新築のほうがいいに決まっているじゃないですか』とシャットダウンされて。それ以上リノベーションについて相談することがはばかられる感じでした」
その理由とは?
栄子さん:
「新築のほうが満足いくものができるでしょ、ということかな。それと、今考えれば私たちもリノベーションがいいのか自信がなかったと思うんです」
どうやら立地を一番の決め手として購入したため、構造的にリノベーションができる物件かわからなかったことがおふたりの不安要素であり、リノベーションを強く 進められなかった理由だそう。
栄子さん:
「リノベーションができる構造だとわかって買っていたら自信満々でリノベーションという選択肢があったのでしょうけど、とりあえず好立地に惹かれて急いで物 件を買ったんですよね。入居時に簡単にリフォームはしましたが、ゆくゆくは塾にするためにきちんとリノベーションをするから、その時点ではお金をかけるのはやめようと最低限のリフォームだけでした」
次郎さん:
「でも昔の造りだから寒かったよね」
とにかく、リノベーションで塾を併用した納得の建物ができるかが最大のネックだったと話すおふたり。
栄子さん:
「リノベーションで無理なら新築しかなかったんですが、その判断をどうすればいいかわからないまま、いろいろなハウスメーカーや工務店を訪ねたけど答えは出ず。 塩原さんに会うまでは決め兼ねていましたね」
たしかに、リノベーションは内装や外装のきれいさだけでは可能か判断できず、構造の状態次第では新築より高くなってしまう場合もあります。しかし、これほどさまざまな会社から新築を勧められたものの、リノベーションの可能性を探り続けた おふたり。「リノベーションであれ、新築であれ、納得のいく説明がないと方向性が定められない」という、家づくりに対する強い意志や情熱が感じられます。
では、どのようにして塩原さんと出会ったのでしょう。
「実際に建物を見ないとリノベーションができるかわからない」
栄子さん:
「塩原さんとの出会いは、Reborn の完成見学会です。どこで情報を得たのか覚え ていないんですが、突然行ったんですよね」
次郎さん:
「Reborn のことを何も知らないで行ったもんね」
そこで出会った塩原さんの対応がほかの住宅会社の営業スタッフと違い、印象的だったそう。
栄子さん:
「ほかの会社では名前や連絡先を聞き出そうとするんですが、塩原さんは控えめで普通だなと。ゆっくりと見学した後に『どう思いましたか?』と聞かれて、実は新築かリノベーションか悩んでいると伝えたら、『今の話を聞いただけではリノベー ションができる建物なのか即答はできない。見てみないとね』といってくれたんです」
次郎さん:
「『見てみないとなんともいえない』っていったのは塩原さんが初めてでしたね」
栄子さん:
「その答えが一番誠実だと感じました。やっとそういってくれる人が出てきてくれたんだ、と思いましたね」
そして簡単な診断から、ある程度リノベーションができそうだという手応えのもと、 後日、正式にインスペクション(建物状況調査)を実施。床下などを確認し、耐震性や機密性などきっちりと計算したうえで、納得できる数字を示して説明してもらえたといいます。
栄子さん:
「自信をもってリノベーションを勧めてもらえました。ただ、その時点ではどんな 家になるかわからなかったので、私の気持ちとしては、ある程度お金がかかってもいいから設計図を描いてもらって、納得のいくものができそうならお願いしようというくらいで、確実に塩原さんで、という感じではなかったですね」
リノベーションができるとわかったからといって、すぐには依頼を決めない。その姿勢からも「納得の家づくりがしたい」というおふたりのこだわりが感じられます。 ちなみに塩原さん、最初の設計図は「簡単なものなら」と無料で描いてくれたそう。
次郎さん:
「塾はマックスで 18 人ほど入れば、という感じでお願いしました」
栄子さん:
「要望はとにかく塾。そのスペースが確保できるかが一番でした。だから、最初の図面を見て実現できるとわかったので、塩原さんに相談していこうと決めました」
こうして 1 階の半分が学習塾のスペースとなり、それに合わせて居住空間を設計していきました。
最大 20 名が入れる塾。シンプルな仕 上がりながら照明にはこだわり、費用を かけて十分な明るさを確保
面談室兼次郎さんの仕事部屋
あるものを生かし、可能と不可能を明確に
基本設計は約半年間かけてトータルで 4 回ほど見直して検討を重ねたそうですが、 2 回目以降の打ち合わせでは、なんと栄子さん自身も自分なりの希望を盛り込んだ 図面を作成し、塩原さんのものと照らし合わせたそう。とことん、こだわりが感じられます。
栄子さん:
「でも、やはりプロは違うなと思いましたね。柱や窓など、今あるものを生かす意識がすごいと思いました」
次郎さん:
「俺たちは構造上、どこの壁が抜けないということがわからないから、丸ごと壁を なくして部屋をひとつにしようと考えていましたが、塩原さんは『それは無理だよ』 って」
栄子さん:
「できないことはできないと、はっきりいってくれるのがよかったよね」
窓の位置は変えずサッシやガラスを断熱性能の高いものに
家族用の玄関は建物の東側に。木製の玄関ドアが樹脂サイディングに映える
栄子さんが塩原さんから「できない」といわれたものが、薪ストーブ。
栄子さん:
「個人的な一番の願望は薪ストーブをつけることだったのに、塩原さんは『それは無理だね。近隣を見てごらん』と。煙が出ると隣の家に迷惑がかかるから、薪スト ーブは考えないほうがいいといわれてショックでしたね(笑)。でも、今考えれば確かにそうだなと。塩原さんが正しかったなと思います」
玄関の先、右側に設けたドアが塾へとつながっている
こうして最終的に、最初の図面から家族用の玄関の位置などは変わったものの、間取りは塩原さんの最初の計画のまま。2 階には皆が集まる開放的な LDK と、キッ チンに併設したサンルーム、そして栄子さんと子どもたちそれぞれの個室が設計されました。
栄子さん:
「夫の部屋は 1 階で、夫婦で別々の部屋だったので意外でしたけど、個室の間取りのこだわりはなかったんですよね。今は寝る時間も別々なので快適です(笑)」
次郎さん:
「実家からは『奥さんと別の部屋じゃダメだ』っていわれたけどね(笑)」
1階の一角にある次郎さんの個室。趣味のスノーボードが並ぶ
1 階のトイレや浴室はかつての配置のまま生かした
“想定外”が起きることがリノベーション
薪ストーブは叶わなかったものの、栄子さんが居住空間で希望したのは、開放的なLDK です。
栄子さん:
「塩原さんはリビングと廊下の間に壁を設けてドアを開けて入っていくプランを作ってくれましたが、私は開放的なほうがいいと壁もドアも全部取っ払ってもらいました」
階段を上るとすぐに広がるリビング
リビングと廊下の間のドアをなくし、 無垢板を 4 枚渡して棚に
自ら図面を書いただけあって、とにかく栄子さんの熱量が素晴らしい。ほかにこだわりを尋ねると「あとはロフトじゃないの?」と次郎さん。
天井は屋根勾配をそのまま生かしたため、栄子さんや子どもたちの部屋の上にロフト空間が生まれることになりましたが、これが想定外だったとか。塩原さんいわく、 高さ 70cm 強のスペースが取れる見通しだったものの、いざ着工すると、奥は広いものの入口自体は 50 数 cm ほどの高さしかないと判明したのです。
栄子さん:
「『これじゃ狭くて入れないじゃん』と。当初はロフトに荷物を置くために階段をつける予定だったので、はしごだけで行き来するように急遽変えましたね。今振り返れば、その時の塩原さんや大工の手塚さんとのやりとりも懐かしいです」
栄子さんと子どもたちの部屋の上に配置された荷物置きスペースのロフト
はしごは可動式に
はしごにした分、階段の設置を予定していたスペースが空いたため、机を設けて学習スペースに。現在は栄子さんの趣味の書道をする空間として活用されています。
栄子さん:
「今はこのスペースがなかったら困るくらい毎日使っているので、この形にしてよかったなと思っています」
ちなみに、リビングやキッチンの一部は小屋裏の松丸太を生かした梁見せ天井に。これは塩原さんたっての希望だったとか。
栄子さん:
「本当はもっとたくさん梁が現れると思っていましたが、ロフトの高さ然り、想定外のことが起きるのがリノベーションですね(笑)。味があって、我が家って感じがします」
また、キッチンとリビングの間の 1 本の柱は構造上、どうしても残さなければいけなかったため、木の縦格子として生かすことでひとつの空間になるように工夫してもらったそう。これにより、新築にはないリノベーションならではの味わいが生まれています。
※その②へ続く
栄子さんが「想定外のひとつ」と話す 梁が一部現れた天井
真ん中の太い柱が建物の構造を支えていて抜けないため、木を添えて縦格子として活用されている
ライター:合同会社ch. 島田浩美
写真:FRAME 金井真一